内製マーケティングを武器に
最大級の人材サービスプラットフォームを目指す

IT人材向け人材サービスのプラットフォームを目指し躍進中の企業がある。国内最大級のフリーランスエンジニア・エージェントを展開する人材サービス会社、レバテックだ。同社は2021年に、入社8年目の髙橋悠人氏を代表執行役社長に抜擢した。髙橋氏が目指す未来について聞いたところ、見えてきたのは多くの日系企業に必要な新時代の視点だった。

フリーランスエンジニアに早期着目

最初に、御社の事業内容についてお聞かせください。

レバテックはIT・Web領域の人材サービス企業として、システムエンジニアやITクリエイターなどの業務委託、紹介、派遣などをおこなっています。中でもフリーランスのエンジニアに特化した「レバテックフリーランス」というエージェントは、累計契約社数5,000社以上、常時提案可能案件数約4,000件と、エンジニアのフリーランスエージェントとしては国内最大級です。当社はもともと、総合人材サービスのレバレジーズ株式会社の一事業部でしたが、2017年に分社化しました。

フリーランスに注力した理由は?

当社代表取締役の岩槻知秀(兼レバレジーズ代表取締役)の実体験に起因しています。岩槻は学生時代、お金の工面に苦労し、エンジニアとして働きながら学業に励みました。このとき、1日単位で働けることや自分で働く日を選べることに助けられたといいます。その後、フリーランスとしてプロジェクト単位で業務を請け負っていくうち、エンジニアが流動的に活動することが業界の活性化につながると感じ、フリーランスエンジニアの支援を始めることにしたと聞いています。レバテックフリーランスを始めた2008年当時は、現在よりフリーランスの人数や受け入れ企業が少なかったので、岩槻に先見の明があったと思います。

その後、髙橋氏が入社して事業拡大に貢献し、分社化となったのですね。

ありがたいことに、入社2年目から支店の立ち上げなどを任せてもらいました。私は2014年に新卒で入社し、最初はフリーランスを支援する法人営業を担当しました。2年目にリーダーとなり、同年、大阪支店の立ち上げを任されました。翌年以降、福岡支店・名古屋支店の立ち上げに関わり、支店統括マネージャーを経て2019年にレバテックフリーランスの事業部長に就任。2021年に代表執行役社長となりました。

IT人材のライフステージに寄り添う長期支援を

代表執行役社長に就任後、始めに着手した取り組みは?

複雑化していた営業支援システムを整備しました。システムを整えなければ、新事業やサービスを始めたときのデータ共有や活用の効率が悪くなるからです。他に、ダイレクトスカウトにも注力しました。ダイレクトスカウトはすでに大手が存在しますが、あえてそこに参入したいと思っています。最近メディアにCMを出し始めたのも、その一環です。

なぜ、いまからダイレクトスカウトに注力しようと思われたのですか?

ダイレクトスカウトはあくまで注力分野の一つで、将来はダイレクトスカウトに限らず、既存の人材サービスはすべて当社で網羅し、さらに広く深く、そして長く支援できる最大級のプラットフォームをつくりたいと考えています。

通常、エージェントは人材が登録した時から支援を始め、その時点のスキルを基に転職先を探し、転職したら支援が終了します。ですが我々は、その前後の支援もおこないます。求職(候補)者とは学生時代から交流を始め、自社の学生向けプログラミングスクールで学んでもらい、新卒に特化した「レバテックルーキー」で就職活動し、その後はフリーランスとして「レバテックフリーランス」などで活動域を広げてもらう流れです。

長期支援をおこなう目的の一つは、長期間のコミュニケーションで見えてくる、働き方に関する潜在ニーズの掘り起こしとデータ化です。転職を考えた経緯や転職後に知った自分の特性、人との相性など、転職の前後に起きる出来事や心情の変化をデータ化することで、より的確なマッチングが可能になります。例えば「思考タイプAの人材は、B社よりC社の業務のほうが能力を発揮できる傾向がある」などです。

総勢150名の内製マーケティングが強み

情報収集していく中で、エンジニアの悩みや支援のポイントは見えましたか?

エンジニアの悩みには技術的なスキルや専門的なものもありますが、意外に多いのが、人間関係の悩みです。専門技術やスキルについて悩んでいても、人間関係が良好で相談する環境があれば、解決できるものです。当社では、フリーランスエンジニアをサポートするフォロワー組織を設け、技術やスキルだけでなく、人間関係の悩みや相談にも対応しています。当社担当者がフォロワーとなり、参画中のフリーランスへ定期的なヒアリング・アドバイスをしています。フォロワーから得られる情報は、もっともリアルで貴重なデータになります。

また、フリーランスをご提案する際、人事部ではなく所属した部署のマネージャーと直接話をしているため、より詳細な事実確認ができます。そのデータをひたすら集め、レコメンドエンジンとして高精度のマッチングを実現したいと考えています。

自社の採用や職場環境については、何に注力していますか?

採用のポイントは、信頼・知性・情熱の3点です。岩槻が考えたものですが、偶然にも世界一の投資家ウォーレン・バフェットが経営者に求める要件と一致していて、驚きました。

職場環境は、より快適でスムーズなコミュニケーションを計るために、エゴグラム(性格診断)を用いている点は当社らしいと思います。全従業員約400人の診断結果を全員が見られるので、普段あまり接点がない人とのミーティングでも、事前にエゴグラムで出席者の性格をチェックしておけば、円滑な会議の進行に役立ちます。どんなに技術が進化しても、結局ビジネスは人が動かします。人が働きやすくなるためにデータを上手く活用することを常に意識しています。

ずばり、レバテックの一番の強みは何でしょうか。

約150名からなる、内製マーケティング組織が当社の強みだと思います。組織をマトリックスにすると、縦軸は機能、横軸は事業となります。機能軸には、リスティング、ディスプレイ、アフィリエイト、SEOなどそれぞれに担当者がおり、各専門性から生まれたスキームやスキルを共有しています。事業軸では、グループ内のビジネス開発におけるシナジーが期待できます。登録から決定までの展開率を高めるための仕組みや取り組みは、グループ内で共有している部分が多々あります。

人が幸せに生きるためのデータであれ

内製マーケティングで作り上げる最大級プラットフォーム、実現する日が楽しみです。

近い将来、当社のプラットフォームが「手厚く手軽な職探し」を全方位から支援する場所になると思います。「手厚く」はエージェントなどの支援、「手軽」は登録するだけで仕事に出会えるシステムを指します。加えて、登録の前後にある人材の心の動きや出来事も職探しにおける行動の一部と考えてデータ化し、IT人材が自分に合う仕事や働き方をより快適に探せる場所にする予定です。さまざまな人生背景を持つIT人材の考え方や人生の歩みを収集しデータ化すれば、例えば自分と似た生き方や考え方の人がどのような人生を歩んでいるか見えるようになり、職探しや生き方の判断材料になります。そのデータを集めるためにも、IT人材と企業をマッチングするだけに終わらない、長期の付き合いが必要になります。

髙橋氏の事業構想はDXをうまく活用した新時代のビジネスモデルだと感じました。最期に、日本企業のICTやDXについて思うことがあれば教えてください。

日本のICT化の遅れを解消することで、GDPや生産性が上がると考えています。日本のGDP成長率は他の先進国に比べ低く、このままでは「失われた40年」になるといわれています。ICT化が遅れる原因の一つに、システムの内製化が進んでいない点が挙げられます。外注を繰り返した結果、システムや決裁権が複雑化し、全国規模のシステム障害を起こした例は少なくありません。システムや決裁権の複雑化は効率を下げ、そのために人員が割かれることで、更に人手不足になります。内製化を進めるには、正社員にこだわらず優秀なエンジニアを採用・調達することが必要です。過去の一例ではありますが、エンジニアの報酬が高額で自社水準に合わない場合は、システム事業部を新設して調整することを提案させていただいたこともあります。

また、転職や複業にポジティブな社会になることも、生産性を上げるために必要だと感じます。日本では長らく「終身雇用制度」が雇用の慣行になっていましたが、経産省の発表では、労働市場の流動性と労働生産性は相関することが分かっています。日本は、米国などに比べると転職回数が少なく生産性も低いといわれています。合わない職場で働き続けるより、生き生き働ける環境へ転職したほうが、良い成果が出やすく生産性も上がるのではないでしょうか。当社は、企業の未来とIT人材の大切な人生を支援する会社として、人材サービスの分野から日本の生産性向上に貢献したいと考えています。