新たな売上創出への新規事業・関連事業は「探す」から「作る」(創る)時代へ
-200億円企業を目指すための3つの価値創造とは-

2019年に売上100億円を達成した物流人材派遣業のテイケイワークス東京。100億円達成をけん引したのは、同社派遣スタッフからの生え抜き社長、若月学氏だ。成長のノウハウや今後の事業計画などについて聞いたところ、公表前のビジネスモデルに至るまで包み隠さず話してくれた。

派遣アルバイトだった若者が14年後社長就任

最初に御社の事業内容をお聞かせください。

テイケイワークス東京は警備会社テイケイを母体とするグループ企業で、物流をメインとした人材派遣・アウトソーシング事業を展開しています。2012年7月に、派遣事業の母体となったテイケイワークスから分社する形で設立しました。現在グループ内には9社の派遣法人があり、私は包括責任者の役割も担っています。分社する理由は、同業他社に勝つ為には、グループ間競争が必要で互いに刺激し合いながら各社を活性化するためです。また、グループ会社が増えれば、そのぶん多くの才能を持った人材が活躍できる場を増やすことができ希望を与えられる、という創業者の思いもあります。

続けて若月さんのご経歴を教えていただけますか。

実は私、もとは当社の派遣スタッフでした。2002年に登録をして派遣先で働いていましたが、同年に当社の社員として採用されました。その後、いくつかの管理職を経て2016年にグループ会社のテイケイネクストの社長に就任しました。そして2019年に、創業者から「テイケイワークス東京を100億円企業にする」という使命を与えられ当社を兼務することになり、着任したその年に100億、翌年には110億を超える売上に成長させることができました。

社員全員が元派遣スタッフ。だからこそ働く人の気持ちに寄り添える

派遣スタッフから社長になられたとは夢があります。働く人たちの希望になりますね。派遣スタッフが社員になるケースは多いのですか?

当社の社員は全員、元派遣スタッフです。スタッフ経験者が社員だからこそ、相談される、相談しやすい環境整備が整っており、現スタッフの気持ちや悩みにいち早く気付き、寄り添い、きめ細かなサポートが可能になります。「困ったことはないですか?」と聞いても、すべての派遣スタッフが明確かつ素直に答えられるわけではありません。当社スタッフは、自身の経験を基に、派遣スタッフの不安や悩みを先回りして気付くことができます。このフォロー体制は、当社の圧倒的な強みになっています。派遣スタッフの働きやすさにとって大事なことは、派遣先で孤立させない、現場での仲間意識です。この雰囲気づくりにも、派遣先で働いた経験が活かされています。

同時に、派遣スタッフへのフォロー内容やクライアントからのクレームなどは毎日チェックしています。管理職クラスの社員については毎日行動予定を共有し、お客様からの指摘など生の声はすべて吸い上げます。厳しいようですが、派遣スタッフに気持ちよく働いてもらうためには、スタッフと派遣先をつなぐ私たちこそがまず、自分を律する必要があります。「任せて任せず」ということですね。これは創業者からの教えです。

御社は数十~数百名規模の派遣スタッフを前日発注でも揃えてくださると聞いています。どうやって集めるのでしょうか。

100%揃えられるわけではないですが、最大240名の前日発注に応えたこともあります。これを実現できる理由は3つあります。

1つは、日ごろからクライアントの動向や出入りする業者の業種や人数、時間帯などを観察している点。異業種交流を毎週行っていることで物流施設が新設される気配やセールのタイミングなどの情報を得て、それを見越した採用をしておけば揃います。

2つめは、9つの企業間連携と採用間口を広げる支店展開。

3つめは、派遣スタッフからの紹介です。日ごろからクライアントや派遣スタッフ同士が頻繁につながっておくことで、いざというときに人が人を呼び込んでくれる関係ができています。それが実現しているのは、社員とスタッフ、スタッフ同士、派遣先担当者と社員など、お互いがパートナーとして、支えあう意識が強いからにほかなりません。実のところ私が代表を務めているのも、部下や周りの皆さんが私を支え押し上げてくれたおかげだと思っているからこそ。クライアントや部下、そして現場で汗をかいているスタッフ一人ひとりを勝たせてあげたいという気持ちが、ビジョンを共有し、足元を固めながら新たなアイデア創出へのヒントに気づけるのだと感じています。

取引先・協業先・異業種をつなぐポータルを目指す

いま注力している取り組みについて教えてください。

現在、メタバース事業を進めています。具体的には、バーチャル展示場を制作中です。「つなぐ」をテーマに、第1フェーズとしてビジネスマッチング会場を作ります。我々の取引先や協業先に出展していただき、各社のセミナーに参加したり資料をダウンロードしたりできるモデルを想定しています。軌道に乗れば、既存のアナログな事務作業の多くをデジタル化できるようにもなります。ゆくゆくはBtoC向けのeラーニング教室やメタバースハローワークを開く予定で、すでに複数の賛同企業と協業しながら制作中です。

新規のビジネスモデルをローンチ前に公表して大丈夫ですか?

技術や情報は隠さず共有するのが私のやり方です。当社のバーチャル展示場をヒントに同じようなシステムを作ってもらっても構いません。隠すより、情報交換したり技術を活用し合ったり競合したりしたほうが、よりよいシステムやビジネススキームが早いスピードで生まれます。同業他社は競合先でありながら、協業先でもあり、だからこそ、事業の成長スピードが速まるのではないかと考えています。 

新たなビジネスは「探す」から「作る」(創る)時代へ

売上100億円突破の目標は早々に達成されました。今後はどのような目標を持たれていますか。

今の市場規模から考えると200億円は見えています。ただ、既存のルートから新たな取引を探しても大幅な業績アップは難しい。これからは、新たなビジネスを「探す」のではなく「作る」(創る)ことが大事です。しかしそれは、価値を「与える」という発想ではうまくいきません。当社の利用価値を見出していただき、その上でオーダーメイドで対応していく提供価値を高め、それにより企業価値が高まる、3ステップのバリュービジネスが必要です。このバリュービジネスからの展開力と、グループの商材管理が我々経営層に求められてくると考えています。

例えば、当時の私が知る限り、業界初の試みとして、デペロッパーとの協業スキームを構築しました。物流施設内には派遣のオフィスを構えてインフラを整備し、きめ細やかなサポート体制を整えています。

 現在では、設計会社との協業や、仲介業者との協業によりグループ商材を活用した事業領域の拡大をはかっています。

倉庫建設の際、事前の埋蔵物調査業務を当社グループ企業で担当し、さらに入居企業誘致から必要資材やシステムの導入、完成後の警備や共用部の清掃などのBM(ビルメンテナンス)、PM(プロパティマネジメント/不動産管理・運用代行)事業までをワンストップで当社がサポートします。そこに、当社のグループ会社の人材や、派遣スタッフを提供する流れです。

これにより利用価値を感じていただき、その上で提供価値を高める話に進めます。機械化による省人化、離職防止に繋げる一人ひとりの負担軽減、働く人の定着率を高める環境整備、この3点を軸にした設備提案を行い、機械化が決まれば設置、オペレーション、メンテナンスなどを通常の物流業務と兼務する「エンジニア的物流スタッフ」を当社から供給。一元管理できる人材の提供もあわせて行います。

この流れにより、我々はどこよりも早く入居企業を把握できますから、必要な人材を稼働前に準備できるメリットがあります。また、必要に応じて開発メーカーの専門技術をもったスタッフを事前にオーダーメイドで育成することも可能になります。専門職的な技術を身に着けたいスタッフにとってはキャリアアップの機会にもなり、派遣スタッフへの付加価値の提供にもなります。

ゆくゆくは、自社の物流施設を持ちたいとも考えています。倉庫業への展開も視野に入れ、既存の派遣先が競合他社になるのではなく、違った形の倉庫事業者としての立ち位置を確立すべく、既にあるアイデアを具現化するために取り組んでいます。また、途中少し協業事業の話をしましたが、物流施設の総合管理を行うビジネスモデルが近い将来できると考え、防災センターや消防設備、駐車場警備なども含むプロパティマネジメントをグループ全体で請け負っていけるよう、行動に移しています。

働くことが困難な優秀な人材を遠隔操作システムで即戦力に

日本の労働人口減少が続いていますが、人材確保の新たな策は考えていますか?

生産労働人口が減少するのは日本の構造上の問題ではあるものの、まだまだ考え方ひとつで、逃がしている労働力の確保や、活躍の場の提供は可能と考えます。

一例ではありますが、遠隔操作のシステムを充実させ、ハンディキャップがある人やシニア、未経験者の雇用創出をしたいと思っています。オペレーションや現場管理のスキルはあるにも関わらず、歩いたり手指を動かしたりできないために働く機会を失った人たちも、遠隔システムによって働けるようになります。その方々が指導者となり未経験者に教えれば、未経験者が代わりに動きながら経験を積むことも可能になります。遠隔やオンライン操作には、セキュリティや警備面での課題はありますが、ぜひクリアして日本の労働力の創出に貢献したいところです。