経営者やマネジメント層に特化したプロフェッショナルファームである、経営者JP。リクルートエージェント・ヘッドハンターランキング2021年の経営ボード部門決定人数1位や、ビズリーチ主催の第7回日本ヘッドハンター大賞の流通/消費財部門MVPなど、数々の受賞歴を誇る同社だが、代表の井上和幸(いのうえ・かずゆき)氏は「我々は人材紹介会社ではない」と言い切る。その言葉が意味するものは何か。詳しく聞いた。
当社の役割は「企業課題をマネジメント陣の最適配置で解決する」こと
最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
経営者JPは、企業の創造・成長・変革を牽引する経営者やリーダーをサポート、プロデュースする会社です。主にエグゼクティブサーチ、コンサルティングのB2B事業、セミナー、会員制プラットフォーム「KEIEISHA TERRACE」のB2C事業の4つからなり、相互のシナジーで経営者・リーダーの皆様がより幅広く活躍できる機会を提供しています。
エグゼクティブサーチは、経営幹部層に特化したエグゼクティブサーチファームです。
キャンディデート(紹介候補者)バンクから探し出したり新規営業をかけたりする従来の方法だけでなく、当社が4つの事業で築き上げた幅広い業界ごとのナレッジやネットワークを駆使した経営者・幹部の採用支援事業です。コンサルティングは、経営陣・マネジメント陣の強化を通じての組織活力アップをお手伝いする事業で、個社毎の経営陣・マネジメント陣の人組織コンサルティング(役員研修、経営幹部陣のアセスメント、抜擢・配置のアドバイス等)や、EQ理論の活用サービスなど提供し、直近では2021年10月に「経営者力診断」というマネジメント向け適性診断をリリースするなど、経営課題の解決をサポートしています。
セミナーは、経営力強化やリーダーシップなど、経営に特化したオリジナルプログラムを提供するとともに、交流の場も提供しています。
「KEIEISHA TERRACE」は、経営層・リーダーであれば業界問わず登録でき、当社からの情報発信に加え、メディア登場者と登録者、登録者同士の交流、情報交換の場として発展させつつあります。
主軸はどの事業ですか?
ここまではエグゼクティブサーチが完全に主軸になっています。では当社が人材紹介会社かというと、私たちにその意識はないんです。当社の使命は「企業の経営課題を経営陣・マネジメント陣の最適配置によって解決する」ことで、人材紹介はその手段にすぎないからです。4つの事業を通じて、志高き経営者・リーダーの方々がより高い能力を発揮してもらえるようになることが、私たちの仕事です。
ということは、特に転職や求人は考えていない、今のステージで活躍したい経営者・リーダー層も御社のサービスを利用しているのですか。
はい、もちろん、ご利用いただいています。当社の会員事業やセミナー事業を通じて多くの経営層の方々と交流することで得られる情報や知識は、エネルギーとなり、企業の成長につながります。当社はその場所を提供しながら、幹部採用や次のキャリアのご相談があればエグゼクティブサーチ事業で対応、尽力しています。
交流の中で生まれる相談や依頼から求職者や求人件数を増やすのは大変では?
もともと当社規模に比しては顧客基盤をかなり多く持っていますので既存の顧客ネットワークとご紹介・お問い合わせからで対応し切れない顧客数があります。経営者・マネジメント層に特化していますからむやみに母数ばかりを増やすことが望ましいわけでもなく。それよりも、当社のサービスの質を高め、より精度の高い紹介を続けていくことのほうが大切です。
コールドコールは基本的に行わず、マーケティング組織での顧客開拓を行っています。当社の理念や実績、ソリューションを知っていただくために、BtoBのマーケティングをおこなうエンタープライズサービス統括本部を設置。キャンディデート獲得も弊社の姿勢、サービスを理解していただくようPRやコミュニケーションを展開するカスタマーマーケティングを仕組化しています。
経営層特化型の採用・育成・サポート事業が必要だと気付き独立へ
人材紹介業ではなく、企業の成長をプロデュースするスタンスにしたきっかけは何でしたか?
私は1989年にリクルートへ入社後、2000年に独立系人材コンサルティング会社に取締役として参画し、04年からはリクルート・エックス(現:リクルートエグゼクティブエージェント)のエグゼクティブコンサルタントとして採用に関わりマネージングディレクターとして同社の事業開発・事業統括に従事した後、2010年に独立して当社を設立しました。エグゼクティブ採用は、このクラス特有のものがあり、採用条件も、内部育成か外部採用か、期限はいつ迄など、その都度変わります。クライアント企業からすれば、どの希望でも自社をよく理解する1社で完結して提供してくれれば助かるはずです。同時に、経営層に特化した採用や育成サポート事業があれば、より企業の発展に貢献できると感じて経営者JPを設立し、経営・幹部層の採用・育成・交流をワンストップでできる企業としてスタートしました。
事業の中で、特に御社らしい取り組みを教えてください。
たくさんありますが、例えば、コロナ禍前まで開催していた「経営者ブートキャンプ」は、この会社を始めてよかったと思う取り組みの一つです。「経営者ブートキャンプ」は、経営者・経営幹部が厳しい経営環境でも勝ち続ける成長戦略を立案できるようにするための実戦経営講座で、これまで幅広い業界の経営者・経営幹部にご参加いただきました。象徴的な変革を成し遂げた経営者の特別講義などもあり、講師や他の参加者(経営者)とじっくり話す機会が持てるため、多くの気付きを得られると好評です。学びを共にする中で本音の話もでき、そこから新たなビジネスや採用につながるケースは少なくありません。コロナもようやく出口が見えてきて対面でのワークショップ実施も再開できそうですので、23年中にはリニュアルスタートできればと考えています。
今後10年は人材業界の歪みを正す期間
御社の社員採用にも特別なこだわりがありますか?
経営者とマネジメント層に特化した事業につき、数打って当てる営業は機能しませんから、やみくもに頭数で採用することはしていません。ただ、1件1件のコンサルティングの質を高め、より丁寧なサービスを継続していくために、エグゼクティブサーチのコンサルタントは相応のペースで増員しつづけていきたいと計画しています。またコンサルタントの育成には非常に力を入れています。
我々のサポートは少し丁寧すぎるところもあるのですが、それがお客様から見た当社の魅力であり信頼だと思いますので、これからも少人数精鋭かつ丁寧なサービスを続けていきます。
業界全体としては、今後どのような変化があるとお考えでしょうか。
これまでの10年は、ビズリーチさんを皮切りに、リクルートダイレクトスカウト、enミドルの転職、日経転職版、dodaXなど、求職者登録ポータルと人材紹介会社の分業・協業型モデルにスイッチした期間でした。これにより、大手並みの自社集客力を持たずとも、当社のようなブティックファームや個人・零細プレイヤーが上記媒体を使って一定以上の活動ができるようになりました。これは、業界全体の活動の裾野を広げる意味で、とてもよいことだと思います。
一方で、この5年くらいで急激に、1年以内で転職を繰り返す短期離職者が激増していると感じます。採用企業や個人に課題がある半面、間に立つ人材エージェントの問題もあると思います。もしかするとそこには、適切とはいえない転職を薦めている背景があり、それが表面化してきたのではないかと感じています。
次の10年が、この歪みを是正していく期間になるとみています。闇雲にスカウトとエントリーをあおり、スペックマッチングでガンガン企業に推薦していき、求職者には大量のエントリーを要請するようなモデルから、もっと丁寧に要件をしっかり合わせて、絞り込んだマッチング → エントリー → 選考を推し進めるモデルに変わっていくと思います。
当社としても、経営層・マネジメント層でのマッチング精度にこだわり、それを実現するビジネスモデルのエグゼクティブサーチを展開していきます。合わせて、時間の経過とともに起きうるマネジメント体制の穴や歪みを察知して対策を打てるダッシュボード「KJPクラウド」を現在構築中です。こちらはコンサルタントの活動を支援するテクノロジー基盤でもあり、当社としてはスタートアップ側面をもつHRtech事業にも位置付けられます。
最後に、御社の中長期的な目標をお聞かせください。
2030年までに、100万人の志高き経営者・リーダー達と10万社の志高き企業を選り抜き、ネットワークしたいと考えています。100万人のリーダーは、日本の就労人口の1.5%に相当し、企業10万社は日本の全法人のたった3%でシェア的にはとても少ないですが、我々は志を高く持ち、未来を熱く語り合えるリーダーや企業と深く長くお付き合いし、ともに発展したいと思っています。