リゾートバイトは、派遣を「憧れの働き方」に変える

「リゾートバイト」の名称で観光地に特化した人材派遣をおこなうダイブ。観光業界がコロナ禍で大打撃を受け、人材の業界離れが進んだ一方で、ダイブの登録スタッフ離れはさほど起きず、売上もコロナ前とほぼ変わらない状態まで回復したという。なぜ、スタッフ離れが少なかったのか。そこにはリゾートバイト特有の理由があると、ダイブ代表取締役の庄子潔氏はいう。

自身の派遣スタッフ経験が派遣事業を始めるきっかけに

最初に、御社の事業内容についてお聞かせください。

当社は、リゾート地のアルバイトに特化した人材派遣会社として2002年に創業しました。観光地のホテルや旅館、スキー場、テーマパーク、飲食店などに対し、仲居、レストランサービス、フロント、調理などのスタッフを派遣しています。10年前からは、外国人スタッフにも力を入れています。外国人派遣をスタートさせたばかりの頃は、外国人スタッフにとまどうクライアント企業もありましたが、外国人スタッフの多くはバイリンガルやトリリンガルで、インバウンド需要が期待される観光業にはありがたい存在であることなどから、いまでは歓迎する企業が多くなりました。

庄子さんが派遣事業を始めた経緯を教えていただけますか。

僕は仙台の高校卒業後、好きなヒップホップサウンドを本場で感じるため、アメリカのコミュニティ・カレッジへ留学しました。結局、20歳で中退し仙台へ帰りましたが、当時の僕は「アメリカ留学の経験があれば、どこへでも就職できる」と高をくくっていました。ところが、オフィスワーク系の企業へ履歴書をどんなに送っても、採用されることはありませんでした。後で思えば、市立高卒で大学は中退ですから、書類選考では不利ですよね。オフィスワーク系の企業は無理だと感じ、それなら給与が高そうなパチンコ屋にしようと思ったものの、パチンコ屋でも不採用。打つ手がなくなった僕は、泣く泣く派遣会社に登録して、工場でパイプを作る仕事を始めました。
 工場には、僕を派遣している会社の営業担当者が頻繁に来ていました。会うたび僕に「庄子君、元気?」「フォークリフトの免許取ったんだってね」と声を掛けてくれました。この声掛けによって、僕は社会人として認められた気がしました。ヒップホップが好きな僕は、その音楽が持つ社会への抵抗みたいな部分を格好よく思って生きてきましたが、本当は認めて欲しかったんだなと、気づいたんです。このとき「今度は自分が、自分みたいな人に活力を与える側になろう」と思い、人材派遣会社に「雇ってください!」と志願しました。
 ですが、当時の僕の経歴は、高卒・大学中退・派遣で工場作業員。人材派遣会社に採用されるのは、難しいと思いました。ただ、僕が人材派遣業に携わる意義はめちゃくちゃあると思ったので、これまでの経緯と派遣会社で働く意気込みを伝えたら、奇跡的に採用してもらえました。そして、この会社で出会ったメンバーと派遣会社を立ち上げました。

リゾートバイトは「職種」ではなく「働き方」に魅力あり

領域をリゾートに特化した理由は何でしょうか。

僕は、泣く泣く登録したはずの派遣の仕事で人生が変わりました。自分も、派遣事業を通じて人が変われるチャンスの場をつくりたいと思ったとき、経営コンサルタントの大前研一氏が提唱する「人が変わる3つの方法」を思い出しました。その方法は、環境、時間、そして付き合う人を変えることです。自分の居場所を変え、時間軸やコミュニティが変わることで、おのずと人は変わり、成長できる。働きながらこの方法を繰り返し体験できるのは、リゾートバイトだと思いました。僕もアメリカへ留学したことで、あらためて日本のよさを知りましたし、家族の大切さを再認識しました。僕みたいな若い人、変わりたい人を応援するには、リゾートバイトが適していると思ったんです。

御社で働く社員も、リゾート地で働く点に共感して入社した方が多いのですか?

リゾート地で働くことそのものより、当社のビジョン・ミッションに共感したメンバーが多いです。「人材」が場所を変えることで価値観や選択肢を広げ、成長する〝きっかけ〟となる『あの日』を創出したいという想いから事業を展開しており、この想いに共感するメンバーが多く集まっています。

コロナの影響で登録スタッフ層が広がった

コロナ禍で観光施設は軒並み営業自粛となり、働き手が他業界へ移ったまま戻らず、人材不足に拍車がかかったと聞きます。派遣スタッフの登録数も減ったのでは?

たしかに、宿泊業の労働者数を見ると、19年時点の全雇用者数は62万人でしたが、20年には55万人と7万人も減っています。コロナ禍で、稼働する当社スタッフも減りました。ただ、もともとリゾートバイトで働く人は職種や正社員にこだわっているわけではなく、移動する働き方に魅力を感じているので、コロナを機に働く業界を変えたり、働き方そのものを変えたりする発想にはなりにくいんです。
 それどころか、コロナ禍でリモートワークや副業の解禁が加速し、リゾートバイトを希望する人の層が広がりました。フリーランサーやアクティブシニア、海外へ行けない代わりに国内リゾートで働きたい人など、これまであまり居なかった層のエントリーが増えました。

とはいえ、御社の経営もコロナで大打撃だったのでは?

それはもう、涙なくして語れない状況でした。20年3月時点で「このままでは経営ができなくなる」と察し、早期退職をお願いしました。みな、ダイブ存続のためにと受け入れてくれました。合わせて、オフィスを大幅に縮小して家賃を下げるなどしました。……、このときは本当に辛かったです。
 メンバーが5分の1近くまで減り、一人ひとりの作業負担がかなり増えたため、徹底的に作業効率化や自動化を図りました。派遣登録までのステップも、一般的に8工程ほど踏むところを2工程で完了できるようシステム化しました。おかげで、現在のスタッフ数はコロナ前の半分しかいませんが、売上はほぼコロナ前までに回復しました。

自治体と協働でグランピング事業を展開。地方創生の力に

現在、特に注力している取り組みがあれば教えてください。

外国人スタッフに関する取り組みとして、特定技能人材支援に注力しています。特定技能には宿泊分野がありますが、現状は盛り上がりに欠けています。当社では、宿泊業界に特化した特定技能人材サービス「宿泊業界のための外国人求人ナビfor特定技能」を提供したり、コロナ前には自社運営のワーキングホリデーで年間約300人を受け入れたりしました。
 また、19年からはグランピング事業を始めました。地方自治体の遊休地にグランピング用のテントを張り、当社の人材で運営をします。ホテルを建てるよりもはるかに少ない費用で宿泊施設を作れ、繁忙期や閑散期に合わせて張り数を調整できます。集客は、月間220万PVの当社グランピングサイト「グランピックス」で集まりますので、集客手数料がかかりません。
 特定技能人材もグランピングもコロナ前に始めた取り組みで、コロナ禍は正直どうなることかと思いましたが、観光は必ず元に戻ると確信していたので、中止することなく続けました。
 創業から20年以上にわたり、全国の観光業の方々にお世話になってきた当社だからこそ、今後も地方創生には力を入れていきたいと思っています。日本は本当に観光資源が豊かで、まだまだ知られていない絶景や文化がたくさんあるんです。
 合わせて、登録スタッフの皆さんにも、観光では見えない街の姿を働きながら感じてもらい、また次の地へ旅立つ「旅行以上、移住未満」の暮らしができるよう、引き続きサポートしていきます。