日本の全エンジニアがはたらいて笑える社会へ

2023年1月1日、パーソルR&Dとパーソルテクノロジースタッフ、パーソルプロセス&テクノロジー社の一部と中核会社であったパーソルプロフェッショナルアウトソーシング社が一緒になり、パーソルクロステクノロジー社となった。今回の合併の意図や今後の取り組みなどについて代表取締役社長の正木慎二氏に聞いたところ、日本が抱える労働問題の根本に切り込む戦略と、働くすべての人への企業努力が見えてきた。

モノづくりとITのクロステクノロジー企業に

最初に、御社の事業内容についてお聞かせください。

当社は、2023年1月1日にパーソルグループ企業3社が合併して誕生したテクノロジー領域の請負・派遣サービス会社です。技術系エンジニアリング事業を手掛けるパーソルR&Dと、IT・モノづくりエンジニアの人材派遣を行うパーソルテクノロジースタッフ、両社の親会社であるパーソルプロフェッショナルアウトソーシングの3社が合併したことで、モノづくりとITの技術を融合させ、テクノロジー領域のサービスを、より幅広く提供できるようになりました。
 社名の「クロス」には、これらの融合の意味が込められています。融合により、例えば自動車設計・開発のエンジニアがITスキルも得て、DX人材として働けるような環境・研修の構築を目指すなど、エンジニアがより優秀な人材になるサポートも強化できるようになりました。
 日本のエンジニアは、高度な技術や知識があるにも関わらず、他のテクノロジー先進国に比べ給与が低い現状があります。米国のエンジニアの平均年収は1,000万円以上ですが、日本は半分以下となっています。これでは、優秀なエンジニアが海外へ出て行ってしまっても仕方ありません。我々は人材サービスを提供する企業として、エンジニアの給与水準を上げます。パーソルは「はたらいて、笑おう。」をグループビジョン掲げていますが、その通りすべてのエンジニアが働いて笑える社会をつくりたいのです。

給与を上げる具体的な施策はありますか?

その答えこそ、パーソルクロステクノロジーが生まれた理由の一つです。これまで日本のテクノロジー領域は、モノづくりのハードエンジニアとITのソフトエンジニアが別々に活躍していました。一方で、世界はすでにモノとITが融合する時代になっています。自動車は危険を察知したら自動で止まってくれ、冷蔵庫は在庫管理をしながら庫内にある食材で作れるレシピを教えてくれます。もはやエンジニアは、ハードかソフトかではなく、ハードもソフトも分かる人材が強いのです。当社の請負・派遣サービス事業を通じ、その両方に精通した人材を育てたり、どちらのニーズにも応えたりすることで、日本のエンジニアの価値を高め給与アップに繋げられます。今回の合併がそれを実現可能にしました。
 日本はエンジニアの数が圧倒的に足りませんが、労働人口の減少や高年齢化が叫ばれるいま、育成して増やすだけでは追いつきません。同時に生産性を高めることが求められます。日本のGDP(国内総生産)は米国、中国に続く第3位ですが、第4位、第5位のインドやドイツに早晩抜かれることでしょう。人口は突然増えませんし、働く人が突然若返ったりしません。我々ができるのは、生産性を高め、経済成長に貢献することだけです。その〝生産性〟を高められるのは誰か? 私はモノづくりのエンジニアとITエンジニアが一緒に働くことで、生産性向上が実現できると信じています。 

自社研修設備への投資で日本メーカーの底力を上げたい

新たなスキル習得の機会や場所はどのように提供していますか?

現在は、社員研修の数や中身を充実させるべく動いており、特に研修をいかに実体験として行えるか、といった部分に注力しています。当社は請負のシェアが高い企業です。研究・開発・設計・実験を大手メーカーから請け負っているため、請負の中での育成が可能です。
 また、当社はMBD(Model-Based Development/モデルベース開発)という、実際の機器を仮想上で動かせるシステム開発にも注力しています。これにより、調査研究から設計、実験までという請負業務の一連を、社内研修として疑似体験ができる体制も整え、お客様の開発プロセスでの効率化(仕組み作り)を支援するサービスとして貢献しています。

研修関連に投資をされているのですね。

おっしゃる通り、かなり投資していきますが、これは当社にとって……いえ日本経済にとって必要な予算です。日本が生産性で他の先進国に後れをとっている理由の一つに、モノづくりのすべてを自前で仕上げなければいけないような考え方があります。テクノロジーにおいては、例えば性能や機能の実験が挙げられます。日本のメーカーは、実験においても、最初から最後まで全て自前で行う企業が多いですが、海外では、実験は外注することが一般的です。実験は専門の会社に任せ、メーカーの能力はメーカーの強みに使う考え方です。日本は自前文化なので、国内の実験専門企業も少ない。当社が実験を請負うことで、日本のメーカーはもっと自社の技術に予算と時間をかけられるようになると考えます。

企業の使命は社会貢献

正木さんのキャリアはどのように始まったのでしょうか?

私は大学卒業後、1997年にテンプスタッフ(現:パーソルテンプスタッフ)へ新卒で入社しました。2年目には個人業績がナンバーワンになり、4年目の2000年にマネージャーへ昇格しました。その後、新宿オフィスマネージャー、東京西営業部部長、バイオメディカル事業本部長、東日本第一営業本部長、16年からの取締役執行役員を経て、20年にパーソルテクノロジースタッフ株式会社の代表取締役社長になりました。派遣事業の入り口から出口である請求書の発行、給与のお支払い、そして基幹システムの開発に至るまで、経験をさせていただいたのは、大変感謝をしています。
 おかげさまでパーソルグループは、売上1兆600億円の企業に成長しました。テンプスタッフとdodaを筆頭に人材サービスを展開していますが、08年のリーマンショックや11年の東日本大震災、そして20年からのコロナと、これまでに雇用が滞る事態を幾度も経験してきました。我々は、顧客の課題に対し、上流から下流まで一貫して応えていける体制をつくると同時に、個人に寄り添った継続支援ができるよう、盤石な経営基盤を整えるため成長領域であるエンジニアに関する事業を取りまとめました。そして自社で設計、開発・実験の事業に加えて、IT技術を〝クロス〟させる「パーソルクロステクノロジー」の構築が、今の私のミッションです。
 日本の労働人口やエンジニア不足の対策としての当社の請負・派遣事業であったり、災害の復旧に役立つIoT(Internet of Things/モノのインターネット)開発であったりとやり方はさまざまですが、事業を通じてよりよい社会を作ること。それが私たちにできる社会貢献だと思います。

性別問わず働きやすいテクノロジー業界を目指して

最後に、今後の展望や計画について教えてください。

現在、女性エンジニアやシニアエンジニア、外国籍のエンジニアを増やす取り組みを進めています。19年にラグビーの世界大会が日本で行われましたが、ALL JAPANのチームは、様々なルーツを持つラガーマンが集まってできた多国籍チームで、日本中を盛り上げてくれました。イノベーションも多様性からしか生まれないと思いますし、日本企業の目指すべき姿が、まさにラグビーのALLJAPANだったように思います。私は、性別も年齢も国籍も多様なエンジニアが集まり、お互いの違いを認め合いながら、誰もが生き生きと働ける会社を創っていきたいと思っています。そういった考えから、技術力を磨く研修だけでなく、人と向き合うコミュニケーション力を鍛えたり、カーボンニュートラルの研究をしたりなど、これまでの経験とスキルの枠を超え、ビジネスパーソンとして成長できる場所にしたいと考えています。
 もう一つは、出産や子育て、介護など一人ひとりのライフステージ・状況に応じて柔軟に働ける環境づくりへの取り組みです。エンジニアスキルがありながら、家庭の事情で職場離脱した人も少なくありません。共働き世帯が半数以上の現代において、育児や介護サポート環境の整備はマストです。これらの施策により、既存の従業員・派遣社員の職場への満足度を高めるとともに、これから当社で働きたいと思うエンジニアを増やしたいと考えています。