人材コンサルタント専門の転職エージェントとして2021年7月7日に設立した株式会社R to R。なぜ人材コンサルタント専門という狭い領域にこだわったのか。そこには、代表取締役の井川優介氏自身のキャリアパスと、人材業界で働く人の転職事情が関わっていた。

人材コンサルタント業の素晴らしさを自ら全うして世に示す

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

株式会社R to Rは、人材コンサルタント専門の転職エージェントです。社名の「R to R」は、Recruiter to RecruiterもしくはRec to Recを意味し、欧米ではB to BやB to Cなどと同じ感覚で使われます。

なぜ、人材コンサルタント専門のエージェントを立ち上げたのでしょうか。

私自身と人材業界のキャリア事情に起因しています。私は新卒から多くの時間を人材業界で働き、42歳で前職の管理部門・士業特化型エージェントであるMS-Japanを退任しました。今後のキャリアを考えるにあたり、思えば人材業界は、新卒で入社して定年まで続ける人があまりいないことに気が付きました。つまり、多くの人が途中でキャリアパスに悩み、人材業界を離れているのです。私は、私が好きな人材業界を、私が全うすることで「人材コンサルタントは安心してキャリアを全うできる仕事」だと世に示したい。そう考え、人材コンサルタントのためのエージェントを立ち上げました。

人材コンサルタントは日ごろ数多の求職者を支援していますが、自身の転職となると話は変わります。日本の転職エージェントを見渡すと、人材コンサルタントだけに特化したエージェントはほぼありません。そのため、人材コンサルタントが自身の転職を考えるとき、相談できる人がいないのです。自社の上司に相談すれば、上司はなんとか辞めさせずにキャリアアップの道を提案しようとしますが、これは中立ではありません。私は、中立的な立場からアドバイスできるエージェントが不可欠だと感じたと同時に、業界を熟知した私がやらなければという使命感を持ちました。

Rec to Rec ビジネスは海外ではメジャーだと聞きます。なぜ日本には少ないと思われますか?

日本における人材ビジネス業界の歴史の浅さが関係していると思います。私が社会人になった頃はまだ終身雇用制の企業が多く、転職自体が後ろめたい行動に見られていた時代でした。転職エージェントは街の路地裏にこっそり看板を掲げて営業し、転職者はバレないように転職していたので、いまのように転職フェアを大々的に開催して求職者を集めるなんて、あり得ませんでした。

異業種への転職で気付いた人材業界の魅力

井川社長のご経歴を教えていただけますか?

私は奈良県出身で、JAC Japan(現ミドル・ハイクラス向け転職エージェントのJAC Recruitment)に入社し、7年ほど大阪、名古屋、東京で勤務しました。同社はいまでこそ上場企業ですが、当時はまだ社員数60名程度の規模でした。就職氷河期世代にはありがたい採用でしたが、実は商社で働いてみたい思いも抱いていたため、20代後半、思いきって商社に転職しました。ところが、商社の仕事をすればするほど、人材ビジネスがいかに自分に合っていたかを感じるようになりました。物を動かす商社と、人をつなぐ人材業界。私には、求職者と企業とエージェントのWin-Win-Winの関係を形にする仕事が合っていると思い、人材業界に戻りました。もちろん、物を流通させる仕事は大切です。ただ、物は同じものが幾つもあって替えが利きますが、人は、まったく同じ人はいませんし、同じ個性の替えはありません。一度の取引が終わっても、その後も人と人の関係が続き、感謝していただける。こんなに人のつながりの強さを感じられる仕事は、なかなかないと思いました。

そして私は人材業界へ戻り、株式会社アイ・アム(現インターワークス)に2年ほど勤め、その後は、奈良に住む親の近くで働くため、2011年に大阪の管理部門・士業特化型エージェントであるMS-Japanへ転職しました。ところが、私のこれまでの経歴が東京の業務向きだという理由から、結局は東京で働くことになりました。13年からは事業部長として事業規模を数倍に拡大し、以降は事業統括本部長(取締役)として未上場からマザーズ上場、マザーズから東証一部上場への歩みを同社と共にした後、21年に退任してR to Rを立ち上げました。

求職者の個性を活かす紹介で採用実績が増加

人材コンサルタント特化型の主なメリットを教えてください。

日本には現在、人材紹介事業を届出ている企業が約2万6,000社ほどありますが、実稼働中の会社は2,000社程度といわれています。当社はそのうち200社以上と取引があり、業界内のインセンティブの仕組みやRA(リクルーティングアドバイザー)とCA(キャリアアドバイザー)などの営業体制、経営に関する最新の動向を熟知しています。人材業界企業は、意外と他社事情を知らない経営者の方々も多く、採用に悩む企業に成功した取り組み例などを伝えると、採用が成功することが多々あります。クライアント様の報酬制度や組織の変更を提案し、求人の魅力を引き出すことで採用が成功したこともあります。

このような当社からの提案がクライアント自体の魅力の整理につながり、他社エージェント利用時の採用数アップにもつながっているようです。

私が登壇したセミナーなどを通じて、人材紹介事業部立ち上げの相談がくることもあります。将来の有力な取引先様としてご成長いただくためにも、できる範囲のアドバイスはしています。人材紹介業はいま成長段階で、経験者、未経験者問わず争奪戦です。その中で最適な紹介を維持するためには、ノウハウの提供はマストだと感じています。

今後は働きかたの多様化で、正社員にこだわらず複業する人が増えると予想されます。条件が細分化され、要件が複雑化するので、エージェントの介入が必要になります。条件だけのマッチングで儲かる業界ではなくなり、求職者とクライアント企業のために知恵を絞るエージェントだけが残るでしょう。

御社ならではの成功例を教えていただけますか。

当社は、クライアント企業の希望に合わせて求職者を探すパターンではなく、求職者に合う企業を紹介する形をとっています。例えば、30代半ばで人材業界は未経験、長らく主婦をしながらフリーランスで働いてきた女性が相談に来られたときの話です。聞けば、地域のキャリア相談員をしたり英会話教室を開いたりしていて、人柄も申し分ない。エージェントに向いていると判断し、エージェントへ紹介しました。キャリアに長期のブランクがある求職者は書類選考で比較的落ちやすい傾向にあります。ですが、弊社がお取引するクライアント企業は私が紹介する意味をご理解くださるので、井川推薦はほぼ書類選考を通過します。結果、その求職者は数社から内定をもらい、希望のエージェントへ入社しました。

誰もが働きたくなる人材業界を創造する

そういえば、「R to R」を商標登録されたそうですね。

はい。「Rec to Rec」は弊社サービス名として併せて取得しました。登録したからには、責任をもってRec to Recに取り組みます。ただ、やみくもに事業拡大したいとは思っていません。拡大が必要なタイミングがあれば仕掛けますが、現在のところは、私だからこそできる人材紹介ブランドを作り上げたいと思っています。

SNSやnoteでの発信に積極的でいらっしゃるのも、ブランディングの一環ですか?

結果としてブランディングにも大きく貢献していますが、初めは求職者に発信する目的でした。本当ならリファーラルだけで求職者が集められれば理想ですが、現状はSNSも欠かせないリファーラルツールです。実際は、求人中の企業からも多数のお問い合わせを頂きます。

最後に、直近の目標や展望などがあれば教えてください。

21年の7月に当社を立ち上げて現在は二期目ですが、一期目は準備期間もありましたので、一期を通して営業したのは今期が初というのが私の感覚です。23年はコロナ禍対策が緩和されてリアル交流がしやすくなりましたので、同業者同士の幅広い交流会や勉強会を開催し、人と人とのつながりを増やそうと考えています。自社のコネクションを構築する意味ももちろんありますが、参加者の方々に同業他社との情報交換の場として積極的に利用していただき、業界の発展につなげていきたいと思っています。

コロナ禍が穏やかになり、人材紹介はいま空前の採用ブームです。同時に、コロナ禍により働きかたが変わり、求職者はフル出勤よりもリモートワークOKの企業を選択するようになりました。人材業界内においても、既存のパワーマネジメントでは働き手が続かなくなっています。一方で、目標という名のノルマやKPIを設定せず、本当に意味ある数字を獲得するための指導を徹底し業績を伸ばしている企業もあります。時代の変化に合わせ、しなやかに成長を続けるためのノウハウをクライアント企業へ提供し、誰もが働きたくなる人材業界の構築の一助になれば幸いです。