派遣社員が抱く「キャリア」「収入」への不安を
解消することが定着率アップにつながる

正社員に特化した人材派遣を中心に、幅広い事業を展開しているEvand株式会社。課題だった派遣社員の定着に注力し、離職率を劇的に改善することに成功した。どのような施策や取り組みが成果につながったのか。急成長中の同社が目指す目標と、伸びしろがあると注目している事業は。代表の石田氏に聞いた。

離職率を改善した施策とは

最初に石田様のご経歴を教えてください。

大学卒業後の2007年、株式会社グリムスという設立3年目のベンチャーに、新卒一期生として入社しました。2011年に株式会社ウィルオブ・ワーク(当時は株式会社セントメディア)に転職。人材派遣事業部で、営業コーディネーターとして働き始めます。1年目で、その年に最も活躍したコーディネーターを表彰する「ベストコーディネーター」に選出。2016年にSuprieve株式会社から、人材事業を立ち上げるということでヘッドハントされました。2020年7月に分社化してEvand株式会社が設立され、私は2021年2月に代表取締役に就任したのです。

Suprieveで人材事業の立ち上げメンバーに抜擢され、どのように事業を成長させてきたのでしょう?

私たちが始めた事業は、コールセンターと量販店への正社員派遣です。正社員派遣にしたのは、Suprieve代表の森武司と話す中で、「人の辞めない人材会社を作りたい」という同じ思いがあったから。正社員であれば安心して働いてもらえるのでは、と考えたのですが、最初はうまくいきませんでした。採用はたくさんできたのですが、離職する人も多かったのです。

退職理由を紐解くと、「キャリアが見えない」「どうすれば給料が上がるのか分からない」「いつ現場から離れられるのか」がほとんどでした。これらを解消できれば定着してもらえるのでは、と2017~2018年にかけて施策や制度設計をしていきました。

どのような施策で離職者を減らしていったのですか?

いろいろ行いましたが、最も大きかったのはメンター制度の導入です。すでに正社員派遣として働いている人向けに試験を設け、合格するとメンターという役職が付き、手当も支給されます。そのメンターが、新人のフォローを行うのです。派遣会社の営業は、現場を知らないことが多く、「がんばれ」と外から言うくらいしかできないことも。同じ会社で同じ仕事をして、技術的なことを知っている先輩が、中からフォローすることがとても重要なのです。メンターは先輩と新人の一対一で、ペアを3~4つ作り、1つのチームになります。それを束ねるのがリーダーで、2~3のチームを見るのがSVです。

このメンター施策によって、現場での新人のフォローだけでなく、退職理由で多かった「キャリアが見えない」の解消にもつながっています。新人が入社したとき、先輩のメンターに支えてもらいながら、自分も「メンターになる」「リーダーになる」と、目の前のキャリアを明確に提示できるようになったのです。離職率が、施策を行う前は10%だったのが、現在は4.8%に改善されています。マイナビの2024年卒版人気就職企業ランキングの、人材サービス部門で国内5位にも選ばれました。

新卒・中途採用はそれぞれどのくらい行っているのでしょう?

新卒は2023年卒が500名、2024年卒は1,000名の採用を目指しています。中途は月間150名、年間では1,500名くらいです。集客方法は主に求人媒体を活用しています。

ここまで採用できるようになったのは、スピード感を持って拠点展開できたからだと思います。毎年一ヶ所ずつ拠点を増やし、昨年は広島・仙台に出しました。現在は全国に7拠点あり、エリアが広がったことで採用数も増えたのです。

派遣社員のキャリアのための新規事業

採用ポリシーとして「友達の、友達による、友達のための会社」と掲げていますが、詳しく教えてください。

Suprieveはもともと、友達が集まってできた会社です。求人媒体を使わず、リファラル採用で人を集める文化があったのです。ただ人材事業を始めて、採用人数を最大化させるためには、リファラルでは圧倒的に足りず、ビジネスとしても成立しない。そこで、友達を採用するのではなく、「友達になりたい人」を採用基準にしたのです。

友達といっても、楽しくワイワイする意味ではありません。サボっていれば怒る、困っていれば手を差し伸べる、そして同じ目標へ一緒に向かえる人。なので現場は厳しいと思います。また、嘘をつく人や悪口を言う人など、友達になりたくない人は、経験者であっても採用していません。

新型コロナは、人材事業にどのような影響がありましたか?

2020年卒の新卒を300名ほど採用し、配属も決まっていたのですが、量販店では店員が減らされ、シフトも削られてしまったので、200名ほどが自宅待機になりました。雇用調整助成金の支給があったので、経営的な危機には陥りませんでしたが、助成金もいつまで出るか分からない。働ける場を作るために、ホームセンターの品出しの仕事をいただいたりしましたが、この状況が続くと会社が倒産するのでは、と思ったこともありました。

ただ、コールセンターは出勤規制がありましたが、稼働が止まらなかった。助成金の受付窓口など需要も増えたので、うまくリスクヘッジになりました。

2020年からはSES事業を始めましたが、どのような背景があったのでしょう?

派遣事業の最重要課題の一つである、キャリアの提示や構築が目的です。コールセンターや量販店は、未経験でも働きやすい分、長くいても単価が上がりづらい。そのため3~4年働くと、退職を考える人が増えます。そこで、給料が上がりやすい領域で、次のキャリアの選択肢として提示でき、チャレンジしたい人が進めるようにSESを始めたのです。

未経験者を対象にした研修も自社で行っています。エンジニアになりたい量販店やコールセンターの社員のほか、これからエンジニアになりたい人に無料で通ってもらい、8ヶ月の研修が終了した後に雇用して働いてもらう、ということもしています。

大手クライアントでのトップシェアを目指す

キャリアアップの選択肢や環境を非常に大事にされていますが、他にはどのような取り組みがあるのか教えてください。

2023年4月にキャリアパス制度をつくりました。入社3年目以降の社員を対象に、先ほどのエンジニアのほか、「営業」「人事」「営業事務」など様々なコースを設け、イーラーニングでそれぞれの職種や業務の知識を学べます。またSuprieve Holdingsには、化粧品開発やマーケティングなど複数の会社があり、転籍も可能です。幅広いキャリアがありますが、一つに決める必要はなく、3ヶ月に一回変更もできるので、自由に選ぶことができます。

福岡県にコールセンターを設立し、アウトソース事業を始めたのですが、それもキャリアアップ支援のため。オペレーターがSVや管理者を目指せるよう、働きながら経験を積める環境なので、スクールに近いかもしれません。人材紹介事業も、退職する社員の次のキャリアを紹介することを目的に立ち上げました。

中心に派遣事業があり、その周囲に様々な事業を作ることで、派遣社員のキャリアに繋がるほか、会社の利益も上がります。「派遣事業とシナジー効果がある」「事業として成立する」に当てはまることであれば、新規事業としてこれからも行っていきます。

人材派遣領域では、どのような営業戦略で事業拡大していくのですか?

以前はジャンル問わず、派遣先を増やすことに注力していました。ここ2~3年は、既存の大手クライアントでトップシェアを目指すようにしています。例えば、派遣先の一つである大手通信キャリアの企業様では、この4月で新たに150名を派遣し、シェア1位になりました。

弊社の強みとして、数を集められる採用力と、定着率があります。この二つに注力することは他社様も同じですが、私たちは施策や戦略、採用基準や評価制度などが全て連動して、採用~定着というゴールに向かっており、ここはなかなか真似できない部分かと思います。

会社全体の今後のビジョンについても教えてください。

弊社は2023年7月から9期目に入ります。2年前に、3年で売り上げ100億を目指そう、と掲げました。当時は年間売り上げが約33億円だったので、ちょうど3倍です。その3年目が9期目なのですが、ほぼ達成が見えています。

事業としては、人材紹介、SES、BPO(自社コールセンターを活用したアウトソーシング)に伸びしろがあると考えています。これらが伸びれば伸びるほど、派遣事業とのシナジーも生まれて、社員たちのキャリアが実現できる確率も上がるでしょう。