グループの介在価値を形にできたとき、新時代は始まる
「何者でもない人が何者かになり派遣を卒業する」その最強カードを渡せる企業へ
販売・コールセンター・製造・介護・建設など業種に特化した人材サービスを展開するウィルグループが、2023年6月の株主総会をもって社長を交代した。新社長は、新卒入社から今日までグループ内企業で活躍してきた、前取締役の角裕一氏だ。新社長に選任された背景、意気込み、未来のグループ像などについて、角氏に聞いた。
変化に対応し続け持続可能な成長を
ご就任おめでとうございます。最初に、角社長のご経歴をお聞かせください。
ありがとうございます。私は2003年にセントメディア(現ウィルオブ・ワーク)に入社し、まず営業部に配属されました。2年目のとき、茨城県に初めて支店ができるタイミングで支店長となりその後人事部に異動し、主に新卒採用を担当しました。06年、社をホールディングス体制にすることが決まり、私はマネージャーとして引き続き人事を担当しました。
当時は会社が急拡大中で、人事部の体制整備は常でした。
一方で、リーマンショックで業績が厳しくなった部門の業績回復を任されたり、ウィルグループの人事部門の責任者に戻ってきたりと、振り返れば、私は長きにわたり「立ち上げや立て直し」を担う役割だったように思います。その後、18年にウィルグループの執行役員就任、21年にウィルオブ・コンストラクション代表取締役、22年の当社取締役を経て、代表取締役社長に就任しました。
社長交代の理由は何でしょうか。
いま労働市場は大きく様変わりしています。これから先は既存の戦略だけでは通用しなくなりますし、我々が成長してきた同じ軌道は描けません。変化に対応し続け持続的な成長をするには次世代のリフレッシュが必要であろうという判断から、今回の社長交代となりました。
ポジティブに働く選択肢を増やし、グループの存在価値を高める
持続可能な成長のために、どのような戦略をお考えですか?
国内では、正社員派遣と外国人管理受託の2つを積極的に拡大していきます。今まで正社員派遣は建設と営業の2職種をメインに拡大してきましたが、今後は職種を増やして拡大していきます。
そして、採用市場の競争はこれからも厳しさは増していくと思います。採用活動のクオリティを高めると同時に、有期雇用から無期雇用への転換を積極的に推進しようと考えています。現在、当社の有期雇用スタッフは2万人です。
有期雇用者の中には、あえて派遣を選ぶ人もいます。育児や介護、もしくは夢があり追いかけているなど、今の生活スタイルにマッチしているから有期雇用での働き方を選ぶ方が多くいます。一方でアンケートを取ると、1年以内に就職したい方やこれからのキャリアを悩んでいる方、将来に不安を持たれている方々も少なくありません。将来への不安や、キャリアを高めることに関心があるスタッフさんたちには、無期雇用に転換することや人材紹介を通じて、エキスパートを目指してもらいたい。それがポジティブな選択肢になるのではないか、と考えています。
だからこそ、有期雇用者のキャリアパスを担う、派遣と紹介の垣根を超えたプラットフォームを作りたい。それが私の思う、新たな経営戦略です。2万人の有期雇用者と、その方々のサポートに奮闘するメンバーがいれば、実現すると信じています。
これまで当社の強みとしてきた有期の派遣事業は今後も成長させますが、新たに加わるウィルグループの強みとして、「働く人をエキスパートに」をコンセプトにしたキャリア形成のプラットフォームを作り、有期雇用者を正社員雇用に導く場所を作りたいです。有期での派遣事業を拡大しながら、無期雇用も拡大していく企業は他にはないのではないでしょうか。
スタッフが「自分自身」「適性」「合う仕事」を知る場所づくりを
事業部の垣根を超えるには、社内調整が必要になると思いますが、何か妙案をお持ちですか?
事業部の垣根を超えるためには様々な変化が必要です。特に良い意味で事業部が縦割りの現在は、各事業部が自律的に運営し、個性化・専門化することで成長してきました。それぞれが強いチームワークや目標達成のモチベーションを持っていてとてもいい関係ですが、お互いが持つ人材情報やノウハウを共有する意識は薄くなります。そこで事業部の垣根を越えてスタッフさんのキャリア形成や雇用満足度を高めていく全社横断型の部門を新設しました。まだ始動して数ヶ月ですが、今までにない変化が起きていてこれからに期待しています。他には、評価も考えていきたいですね。現在は所属部門でのパフォーマンスにフォーカスした評価になっていますが、所属部門以外への貢献も評価の対象に出来ると垣根を越えやすくなると思います。
これには、有期雇用者が「もっとスキルを身に着けてキャリアアップしたい」と思える環境づくりも同時並行する必要があります。教育制度のさらなる充実、あとはモチベーションアップにつながるコンテンツを提供したり、有期雇用者が先輩技術者を指名して質問できたりする仕組みなども必要だと思っています。当社は、誰もが知る大型商業施設の設計や建築に多数関わっていますが、スタッフの中にはその事実を知らない人もいます。派遣でも有名施設の仕事に関われるだけでなく、中にはその働きぶりを評価され大手建設会社の正社員になったスタッフがいることを知る機会があれば、自分も頑張ろうという気持ちになる人は増えると思います。
21年にローンチした『ウィルオブ公式アプリ』(運営元:ウィルオブ・ワーク)は、今後もコンテンツの開発を続け、これから高めていくスキルやキャリアを模索していけるようなツールにしていきます。世の中には数多の有益情報がありますが、それは探さなければ出合うことはありません。我々が、出合いのきっかけを作りたいのです。そして、最終的にスタッフが「自分を知り、自分の適性を知り、自分に合う仕事を知る」場所になることを目標にしています。
有期雇用の無期転換を増やすとなると、紹介事業も同時拡大していくイメージですか。
おっしゃる通りです。無期に転換したとしても、次のキャリアに向け卒業することがあってもいいと考えています。スタッフもエキスパートになると、スキルを活かした次のキャリアを考えるようになります。そのとき当グループが介在して、最強のキャリアパスを手渡してあげたい。派遣だけのキャリアでは採用されにくい職種や企業でも、当グループで派遣のエキスパートになれば正社員への道が開けるようにしたいです。そのためには、紹介事業の拡大と発達、そして派遣事業とのクロスが欠かせません。この仕組みで正社員採用された人はきっと、未経験者や派遣で働く方を大切に育ててくれると思います。そして、ウィルグループに発注してくれたら最高ですね。
時代を超えて、発展する会社をつくる
最後に、角社長ご自身の未来予想図をお聞かせください。
若手のころ、当時の代表だった池田(現会長)がバイブルにしていた『ビジョナリー・カンパニー』という書籍を私に貸してくれました。「自分たちの寿命を超え、世代を超えて、時代を超えて発展していく会社を作る」という内容で、私は読むなり、それまで考えていた自分のビジョンがとてもちっぽけに思えたと同時に、「こんな会社を作りたい!」と心の底から思いました。そして、まず提案したのがミッション・ビジョン・バリューの策定でした。当時、経営陣と策定を共にした時間が更に自分に大きな影響を与えました。
私は学生時代、貧乏バックパッカーとして世界を旅しました。そのとき「いつか大金持ちになって友達を引き連れてモン・サン=ミシェル(Mont Saint-Michel/フランス西海岸サン・マロ湾上の小島)で豪遊するぞ」という夢を描いて社会人になりました。ですが「自分たちがこの世を去った後も何世代にもわたり発展する会社をつくり、追及しつづける」というビジョンに出合ったことで、「やっぱり自分は豪遊より冒険だな」と考えが変わりました。
この冒険はいつまでも続けたいところですが、引き際も大切だと思っています。池田会長や大原前社長が私に社長のバトンを渡したように、私もいつかは、次のリーダーに引き継ぎます。それまでに大きなバトンにすることと、そのバトンを受け継げる素晴らしいリーダーを輩出することが私の役目だと思って駆け出していきます。