社会貢献企業であり続けるために
4つの壁を越えていく

国内最大級の技術系人材サービスグループ、テクノプロ・グループ。2012年のテクノプロ・ホールディングスの設立以降、14年の東証一部への株式上場や企業買収なども経て力強い成長を遂げてきた。2年前から経営の指揮をとる代表取締役社長の八木毅之氏に戦略の真意を聞いたところ、そこには一貫した「社会貢献」とエンジニアへの思いがあった。

仕事のこだわりは「日本社会への貢献」

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

テクノプロ・グループは、技術者派遣や請負、国内ニアショア・海外オフショア、技術者研修などを事業とする技術系人材サービスグループです。規模は国内最大級で、国内に約2万4,000人、海外に約3,000人の技術者・研究者が在籍しています。クライアントの業界は製造業、IT・通信、化学、バイオ、医薬、建設など多岐にわたり、日本の産業界が必要とするほぼすべての技術領域をカバーしています。当社はグループ持株会社として12年4月に設立され、私はその直後の同年11月に入社しました。

八木社長が入社されるまでのご経歴を教えていただけますか。

私は、1991年に新卒で日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)へ入行しました。銀行を選んだ理由は、日本の産業発展に間接的ながら貢献できると考えたからです。入行後、法人・個人の営業や企画の仕事をしましたが、銀行が一時国有化された98年に人事部に異動し、退職するまでの14年余りの間、人事業務に従事しました。その間、経営体制の変更とともに導入された外資流の人材マネジメント手法にも触れ、日本企業の目指すべき人事・雇用制度のことを深く考えるようになりました。そして、「培った人事ノウハウをまったく別の業界で活かしたい」と思い始めた私に、当時始動したばかりのテクノプロ・ホールディングスから人事責任者として招聘したいとの話をいただき、入社に至ったというわけです。当グループの事業が技術と人材を通じて産業発展に直接貢献しており、「一企業」ではなく「ジョブ」を志向する技術者の働き方が日本の雇用制度の進化を先取りしていると感じたことが入社決断の決め手となりました。

人材獲得競争が激しくなる中、強い採用力を発揮していらっしゃいますね。

現在、当グループは持株会社を除き国内8社、海外5社で事業展開しています。うち国内の主要事業会社は4つの社内カンパニーでなる株式会社テクノプロと、株式会社テクノプロ・コンストラクションの2社です。各カンパニーがそれぞれ異なる技術領域を担当し、採用も含めて常に競争しながら成長を追求しています。入り口が多いことは全体の採用増に寄与していますし、求職者にとっても志望する技術領域が明確になるメリットがあります。競争は、リクルーターの質や採用手法の向上にもつながっており、年間で約4,000人(新卒1,000人、キャリア3,000人)のエンジニアを採用することができています。もっとも、活力向上に資する競争は尊重する一方、システムや人事制度の共通化を進め、業務効率アップやグループ内人材流通を可能とする基盤整備を進めています。

「働き続けたい会社」を目指した環境整備で低い離職率を維持

リクルーターの質を上げる他に、採用数アップの戦略はありますか?

大量に採用しても大量に退職してしまっては意味がありませんから、技術者の生涯価値(Life Time Value)を最大化させる魅力的な仕事を提供することを最重要視しています。人材の流動化の激しいIT業界でも離職率は9%程度とされる中、当グループでは、技術者正社員の離職率7.5%を目標にしています。私が入社当時の当グループの離職率は15%を超えていましたが、さまざまな改善施策の結果、今ではおよそ7~8%前後で推移しています。今期第2四半期の離職率は6%になりました。

当グループでは、国内2,300、海外200のクライアント企業があり、自分の目的や目標に合うプロジェクトを見つけることができます。また、リスキリングやアップスキリングのための教育プログラムも充実させています。18年には技術研修スクールを運営するピーシーアシスト株式会社を買収し、エンジニアがいつでも学べる環境を整えました。こうした利点は、離職防止だけでなく採用力向上にもつながると考えています。

加えて、自己成長を促し、お客さまから高評価を得て報酬アップを図る視点も欠かせません。日本のエンジニアは、海外に比べ報酬が低い傾向にあります。仕事内容は似通っていても、就業形態が派遣というだけで、コンサルタントより低い報酬になることもあります。派遣エンジニアの地位向上は、私たちの社会的役割の一つと捉えています。

他に、男性が育児休業を取りやすくするため「まずはリーダーが育休を取ろう」と働きかける『イクボス企業同盟』に加盟したり、育休取得者への一時金『パパママ育児応援金』を支給したりするなど、働きやすい環境整備には特に意を用いて取り組んでいます。

実りある人生をサポートする企業であり続けたい

働く環境整備への取組みについて、御社ならではのエピソードを教えてください。

従業員満足度調査を毎年実施し、特に多かった意見や改善案の中から優先度を考慮して、実現する施策を決めています。コロナ禍前から導入していたリモートワークや今年4月に解禁・緩和した副業許可などが代表例です。調査結果は、私が毎月発信する従業員宛のメッセージでも必ず共有しています。メッセージは経営方針・業績や制度についてだけでなく、私の関心事や経験談など、パーソナルな題材も採り上げています。メッセージを読んだ社員から感想メールが届くこともあり、大切なコミュニケーションの機会になっています。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

企業としての長期的な存続や成長を目指すうえで、越えなければならない4つの壁があると考えます。1つは、企業間の壁です。すべてを自社で内製するのは、質にも量にもスピードにも限界があります。エコシステムの活用によりオープン・イノベーションを図れば、成果は足し算ではなく掛け算となるでしょう。

2つめは、産業の壁です。例えば、金融業界ではIT技術者の占める割合が高いのはイメージどおりだと思いますが、最近では自動車や医療用機器などの分野でも、4割強がIT技術者になりました。つまり、産業を問わずIT化・デジタル化・ソフトウェア化に対応できる企業・エンジニアが求められる時代になったということです。

3つめは、国境の壁。日本国内では求めることのできない人材や技術が海外にはあります。当社はコロナ禍前から、日本で働きたい海外のエンジニアを積極的に採用・育成しており、その実績やノウハウは、おそらく業界内ではいちばんではないかと思います。労働人口が減少する日本にとってますます重要になる海外からの採用とともに、オフショア(海外業務委託)開発による技術力の流通を促すことに注力していきます。

そして、4つめが、グループ内組織の壁を越えることです。情報や技術、ベストプラクティスの共有を進め、連携と協働を強化しながら高め合い、グループとしての総合力で社会課題の解決を図ります。  テクノプロ・グループは、「技術」と「人」のチカラでお客さまと価値を共創し、持続可能な社会の実現に貢献することが存在意義だと考えています。お客さまの真のパートナーであり続けるために、外部環境の変化へのしなやかな対応力を高める「進化」の努力を続けています。私たちがサステナブルな企業として高く評価されれば、優秀なエンジニアが集うプラットフォームとなり、お客さまからの信頼もさらに高まります。課題解決に自信と誇りを持って働くエンジニアは、社会のイノベーションの原動力です。

企業価値向上と社会貢献を一体で考える私たちは、現在の中期経営計画では技術的課題を見つけるところからクライアントに関わっていくことを推進しています。日々派遣先で働くエンジニアだからこそ発見できる課題があります。現場力を活かしたエンジニア起点での課題抽出からソリューションへ導くプロジェクトは、お客さまからますます求められる技術サービスであると確信しています。