いま注目のエンプロイヤー・ブランディングに関するサービスを2019年から提供しているモーションワークス。創業者でマネージングディレクターのブラド・コーベット氏は「今後の人材業界は、エンプロイヤー・ブランディングに取り組む企業が勝者となる」と語る。その理由を聞いた。
人材関連企業のブランディングをサポートするために創業
最初に、業務内容をお聞かせください。
モーションワークスは、主にエンプロイヤー・ブランディングに関するサービスと採用コンサルティング事業を展開しています。エンプロイヤーのミッションやカルチャー、目標などに基づくブランディングをし、それを企業PR動画、動画求人広告、ポッドキャストなどの制作配信サービスとして提供しています。人材紹介やコンサルティング、Rec to Rec (Recruitment to Recruitment/HR転職)もおこなっています。
モーションワークスを創業したきっかけは何ですか?
当社の創業前、私は法律事務所や企業法務に特化した人材紹介会社のゼンショーエージェンシーで働いていました。同社は、日本トップクラスの法律系リクルーターの一人でゼンショーエージェンシー創業者兼CEO、ロビン・ドゥニッケ氏が経営する独立系リクルーターのための会社で、当時はまだ小さなリクルーターグループでした。
あるとき、ロビン氏とチャド・クレラー氏(後のヨセミテタレントパートナーズ創業者)から「人事・採用部門を立ち上げて欲しい」と声がかかりました。ロビン氏はクリエイティブで広告業界の経験もあり、「ゼンショーを宣伝するためのスポットライトビデオを作りたい」と言っていました。ちょうどその1週間前、私はビデオグラファーの元同僚と会っていたので、これは絶好のタイミングだと思い、一緒にブランディングプロジェクトを始めました。
プロジェクトを進める中で、経験豊富なリクルーターがどのような仕事のやり方をしているのか、何が彼らを突き動かすのかを知ることができ、徐々にエンプロイヤー・ブランディングとリクルートをテーマにした自分のビジネスを始めたいと思うようになり、2019年に実現させました。
コーベット様のご経歴をお聞かせいただけますか?
私は米国のミズーリ州、セントルイス出身で、日本には30年近く住んでいます。最初の来日は米国海軍として、神奈川県の横須賀と厚木に7年間駐留しました。 軍を辞めた後、最初に英語教師となり、続けて社員研修職やマネジメント職に転職しました。この辺りから、私の人事キャリアが始まりました。その後、人材業界に飛び込み、15年以上この業界で働いています。 複数のブティック型人材紹介会社や社内採用・紹介会社で働くうち、私なりに業界の課題を感じるようになり10年に最初の人事コンサルティング事業を立ち上げ、19年にモーションワークスを創業しました。
エンプロイヤー・ブランディングは業界急務の取り組み
コーベット様が感じた業界の課題とは?
日本の人材業界は、新しいことを取り入れるスピードが非常に遅いと感じました。既存のルールや知識にとらわれやすく、新しい選択肢の検討には非常に消極的でアクションまでに時間を要します。 一方で、エンプロイヤー・ブランディングは多くの企業にとって苦戦を強いられている部分であり、ゆえに革新的なアクションが必要と考えます。
企業内のエンプロイヤー・ブランディングは、誰が担当するのが望ましいとお考えですか?
全員です。マーケティング部や営業部などが単独で進めても成功しません。マーケティングチームと人材獲得・人事チームの双方が協力し、全社を巻き込む必要があります。
ブランディングコンテンツの良い例を教えてください。
人材紹介の分野では、ロバートハーフやWahl+Case、コーナーストーン・リクルートメント・ジャパンのような企業が動画を多用しています。また、JACグループ、ランスタッド、キャリアスカウトジャパンなどは、エンプロイヤー・ブランディング戦略に力を入れています。彼らは皆、非常に一貫したメッセージを持っており、組織内の多くの人にフォーカスをあて、彼らの専門知識や知識を強調しています。このように、リクルート業界におけるエンプロイヤー・ブランディングをリードしている企業は幾つか存在します。
直接雇用の企業については、最近、PwCがコンサルティング・チームとしてプロジェクトに取り組む様子を紹介したクリエイティブなブランディング・ビデオを見ました。 7分ほどあり、とてもユニークで、クライアントに対応するためのプロセスや、入社希望者に対応するチームワークをうまく表現していました。全体として、中小のブティック・エージェンシーでも、従業員ブランディングの取り組みを始めたり、コンテンツを試したりしているところが多く見受けられるようになりました。
ブランディング・メディアの効果を測定する最適な方法は?
投稿や動画がどれだけ表示、再生されたかは、直接的には重要ではありません。再生回数は、そのコンテンツが面白いという指標にはなりますが、コンテンツの流入要因やエンゲージメント率を測定していなければ、それが成功したかどうかを知ることはできません。多くの企業にとって、ROIやインパクトを測定することは非常に難しい。効果を調べる最も簡単な方法は、ユーザーに聞いてみることです。「当社のコンテンツはご覧になりましたか?」と質問し、「いいえ」であればコンテンツの数や露出回数を増やす必要がありますし、「はい」であればよいスタートだと言えるでしょう。
エンプロイヤー・ブランディングの必要性は自らの事業で体現
業界のブランディングの現状をどのように分析していますか?
コロナ禍を機に、企業は今までとは違う戦略の必要性を痛感したと思います。それを行動に移し、なおかつ競争力を維持できた企業がキーとなります。いま私たちがいるのはステージ2。世界はすでに次のステージへ移行しました。あらゆる業界の多くの企業が何らかの形でブランディングに取り組んでいますが、戦略的なエンプロイヤー・ブランディングの取り組みという点では、日本はまだ未熟な市場だと考えています。
合わせて、Rec to Recの促進も日本の人材業界の課題だと思います。日本の人材業界は、そこで働く人の転職について、情報があまりありません。また、規律正しく一貫した人材配置を実施しているにもかかわらず、抽選や裁量ボーナスなどの障害により、適正な報酬を得られない従業員もいます。
今後の展望をお聞かせください。
エンプロイヤー・ブランディングや、ビデオを使った人材や知識、ミッションをアピールし、ターゲットとなる人材を惹きつける戦略は継続して発展させていきます。今後は、エンプロイヤー・ブランディング戦略に取り組んでいる企業が勝者になると考えています。近い将来、企業はブランディングや採用、代理店との関係においてより戦略的になり、コンティンジェンシー・モデル(どのような状況でも最高のパフォーマンスを発揮するリーダーシップは存在しないという考え方)はあまり使われなくなると思います。
最後に、エンプロイヤー・ブランディングをまだ始めていない企業へメッセージをお願いします。
企業がブランディングの必要性を感じていないのであれば、それは困難な経営になるでしょう。私たちは、企業にブランディングを検討してもらうための営業電話や有料プロモーションを行うことはあまりありません。創業から4年半の間、私たちのビジネスはすべて、私たちが制作したコンテンツからの直接アクセスや紹介で成り立っています。私たちは、自分たちが提唱するビジネスモデルを実践し、有益であることを市場に伝え、ご依頼いただけるように尽力しています。実際に、企業から「1本のビデオを作るのにいくらかかるのか」「こんなものを作ってもらえないか」などと相談されることは少なくありません。 これは、エンプロイヤー・ブランディングをしたいが手段が分からないという、発展的で素晴らしい意思表示です。そして、私たちにはその要望を形にするスキルと実績があります。