2018年に士業特化型キャリア支援サービス『ヒュープロ』(旧『最速転職 Hupro』)を開始した、スタートアップ企業の株式会社ヒュープロ。21年から同事業をけん引する酒井陽大氏に、士業ならではの特性を活かした独自の事業展開と未来の展望について聞いた。

「スピーディーな転職サービス」誕生の背景

最初に、事業内容をお聞かせください。

2015年に創立した当社ヒュープロは、士業や管理部門に特化したキャリア支援サービス『ヒュープロ』の運営を中心に事業展開しています。エントリーから面接まで最短5時間、登録から内定まで最短1日という「スピーディーな転職」を強みとしており、23年7月時点の登録者数は2万人を超え、求人数は間もなく1万件に届くところまで増えてきました。

「スピーディーな転職」をコンセプトにした理由は何でしょうか。

スピーディーな転職を前面に打ち出した背景には、過去にご支援した求職者様からの感謝の声が、代表の山本の気持ちを動かした経緯にあります。その求職者様は子育てに忙しい税理士の女性で、転職をしたくてもエージェントへ出向く時間がなかなか取れずにいました。当時はコロナ流行前だったこともあり、オンライン面談の概念が薄く、女性は複数のエージェントから「面談に来られない人には紹介できない」と言われ続け、転職を諦めかけていました。そこで、弊社代表の山本がオンライン上のやりとりで支援をしたところ、わずか2週間で転職先が決まりました。

士業は、求められるスキルや資格が明確で採用要件がシンプルです。該当業務の担当者が一人ということも珍しくなく、その場合は協調性などの人柄の要素以上にスキルセットが重要視されるため、会わずに採用を決定する企業も中には存在します。この経験から山本は、「スキルもニーズもあるのに、育児や時間の都合で転職活動がままならない人のために、できるだけ時間と手間をかけずに転職できるサービスが必要」と感じ、スピーディーな転職サービスを始めました。

「ヒュープロ」の中でマッチング精度を上げる工夫は?

当社では、ある一定の転職者の属性、企業の属性を括ってマッチングする型化はしておらず、完全にオーダーメイドでマッチングしています。これを実現するため、人員への育成には力を入れながら短期で専門性と営業力を身につけられる仕組を作っています。

求人開拓の際、クライアントとの関係構築において心がけていることは?

とにかく売手市場である背景を踏まえて「いかに早く、具体的な候補者の提案をできるか」を大事にしています。初回の打ち合わせから、具体的なご提案をもとに、企業との採用要件の目線合わせをおこなっています。

介在価値がある働きかたにこだわり続けた

「スピーディーな転職」を実現するにあたりオンラインを活用されたと思います。サービス開始当初はコロナ禍前でオンライン面談を実施する企業は少なかったので、サービスの提供は難しかったのでは?

たしかに、サービス開始当初は遠隔での面談や商談が業界に浸透しておらず、事業は苦戦しました。ですが、コロナ禍になりオンライン活用が推奨され始めると、一気に風向きが変わり、業績が上向き始めました。業績アップにともなう自社従業員の増員があり、私を含む多くの従業員が21年に入社しました。

私は大学時代に清掃代行会社の運営をしていました。Airbnb(エアビーアンドビー)のオーナーを取引先とし、清掃手配やメッセージ対応を代行する事業でしたが、特に営業をしなくても口コミで発注がくるため、学校で授業を受けている間に売上が作れる状態でした。このとき、時流に乗れば儲かるビジネスの存在と成功例を体感できましたが、同時に自身の介在価値を感じなくなってしまい、大学四年生のときに事業を辞めて就活を始めました。

就活では、人材サービス会社へ出向いて人材事業を立ち上げたいとアピールしました。どこにも採用されませんでしたが、いま思えば当たり前ですよね。人材サービス会社にはすでに人材事業があるわけですから。次に、人材業界以外で人材サービスと相性がよさそうな企業を探しました。そしてマタニティー関連商品に強い通信販売会社へ入社し、人材事業を立ち上げました。

なぜ人材事業にこだわったのですか?

大学のゼミでジェンダーとワークライフバランスを学んだことが理由です。出産や子育てには、どうしても女性にしかできないことがあり、よって女性の家庭内労働比率が高くなり、キャリア離脱をする人が出てしまいます。それは今後もきっと変わりません。半面、20~40代の女性がキャリアを諦めずに仕事を続けることは、今後の日本の成長に必要です。それにも関わらず、例えば採用時に30歳の男性と30歳のワーキングマザーのどちらか一人を選ぶとなると、男性が選ばれるのが現状ですよね。いまこそワーキングマザーの働きかた、働きやすさに特化した人材紹介サービスが必要だと感じていました。

入社した会社はワーキングマザーに理解ある会社で、私が立ち上げたワーキングマザーのための人材事業を社会的存在価値として認識していました。しかし私は、その枠に収まらず更なる成長を望み、転職を決めました。

独自のマネジメント手法で事業の急成長を支える

酒井さんがご入社後、営業担当者の人数は増え続けているそうですね。どのような教育体制で新人や未経験者を育成していますか?

私が入社した21年時点のセールスチームは13人体制でしたが、現在は約3倍の40人に増えました。事業を始める初期は、往々にして属人的な営業活動の強さで立ち上がります。そこから拡大期に入り組織化するとき、様々な課題が発生します。例えば、プレイヤーがマネジメントを兼ねることによる生産性の低下や、教育が必要になるもののプレイヤーが必ずしも教えられるわけではないことです。

そこで当社は、独自にマネジメントのフレームワークを作っています。マネジメントの理論をベースに、現場向けに落とし込んだマニュアルを作成した上で改良を重ねています。合わせて、新人が求職者面談をするときはマネジャーが同席し、アドバイスをおこなっています。

採用時にも、3つの独自基準を設けています。1つ目は、継続力やレジリエンス力。2つ目は、成長の角度が高くポテンシャルを感じられること。3つ目は、周りを巻き込む力。第二新卒の採用が多い弊社は、学生時代の部活の継続歴や活動内容でそれらを判断しています。

弊社では業界も職種も未経験の方の採用割合が多く、実際に社内のトッププレイヤーは未経験の方になることが多く、若手が多いという点からしても経験やスキルより変化率に目を向けています。一定期間での変化量が大きい人材というのは、周囲の指摘やアドバイスを受け入れ、適切に理解し、その後の最初の行動で改善がみられる傾向にあります。

理解も行動も「なんとなく」では成長はしますが、急激な成長は望めないと考えています。

さらなる増員の予定は?

23年度中に社員数をさらに増やす予定です。現在、転職業界系のありとあらゆるキーワードに広告を出しており、おかげで求職者が増え、求職者向けの広告を見た企業からの問い合わせも増えました。6月には、ファイナンスキャリアフォーラムというオフラインのイベントを自社で初めて実施し、ファイナンスに興味がある参加者182人を集めることができました。さらに、8月は税理士の試験会場でサンプリングをしました。これらに対応するための採用でもありますが、人材業界は未経験採用が多く場数を踏んでもらう必要があるので、事業がさらに大きくなる前に育成をして、サービスの質を保つ意味もあります。

高く困難な目標にチャレンジし達成し続ける空気をつくる

最後に、今後の展開についてお聞かせください。

今後も継続的な会社の成長を見据え、先回りの採用を続け、育てて伸ばすマネジメントを続けていきます。これには「困難な、高い目標にもチャレンジし、達成し続ける空気を社内につくる」意図があります。ヒュープロスタイルの事業を拡大し、いずれは業界の新しい型にしたいと考えています。

また、士業や管理部門を軸に、サービスをさらに拡大していく予定です。当社の事業目的は、働きたい人がスムーズに働きたい場所へ行くための支援であり、人材紹介はその手段の一つであると考えています。事業内容が『人材紹介』ではなく『キャリア支援』であるのも、それが理由です。今後は、採用ブランディングやホームページ制作などのサービスも充実させていきます。士業の採用は、資格やスキルが最重要視されるため、一般的な転職より少ない工数、面談数で済みます。この点を活かし、よりよい橋渡し役になれるよう、今後もサービスを磨き続けていきます。