2023年6月19日、パソナグループがベトナム中部ダナン市にデジタル領域を中心とするBPOサービスの新拠点「パソナDXハブダナン(Pasona DX Hub Da Nang)」を開設した。同社はこれまでも、2020年に本社機能の一部を淡路島(兵庫県淡路市)に移すなど、中核機能の所在地を東京にこだわらない成長戦略をとってきた。ポーターズマガジン編集部は、ダナン市で開催された開所式に参加、グループ全体の指揮を執る創業者の南部靖之氏に、ダナン開設の意図や今後の展望などについて取材した。

ダナンをアジア全域のBPOと人材育成の拠点に

「パソナDXハブダナン」開設おめでとうございます。最初に、どのような事業を担うのか教えてください。 

ありがとうございます。「パソナDXハブダナン」は、デジタル領域の研究開発やサービスの提供、高度なIT技術者の育成拠点として、2023年6月19日、ベトナム中部のダナン市に開設したDX領域の開発研究センターです。延床面積は約1000平方メートルあり、企業向けのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスやDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進、ベトナムのIT人材のスキル向上を支援します。今後は、ベトナムだけでなく、アジア全域のBPO事業の拠点にしたいと考えています。

パソナグループが04年にベトナム拠点を開設してから今年で20年目になります。これまでベトナム拠点のサービスは、オフショアの拠点として、ITやCADのオペレーション業務が中心でした。その育成ノウハウを生かし、今後は高度なIT人材の育成を行い、先進的なテクノロジーの製品化までを実現できる場所にしていきたいと思っています。ベトナム拠点では現在、約200名のスタッフがおりますが、このダナンのDX人材について25年までには500名に増員する計画です。今後はアジア各国や日本からのアウトソーシング事業を拡大しようと思っています。

皆さんご存じの通り、日本はIT人材が30万人不足しているといわれます。また、女性活躍推進が急がれる状況です。エンジニア領域は、スキルの男女差がないにも関わらず、まだまだ女性の数は足りません。ちなみに、ダナン市は理系の労働人口の男女比率がほぼ均等です。これまで、働きたくても働く環境が整わない女性の活躍推進に向けて、今後は企業が積極的に後押しする必要があります。当社が日本で築き上げたノウハウを「パソナDXハブダナン」でも活用し、日本と同レベルの働く環境を整備し、事業・サービスを展開できるようにしていきます。

なぜ新拠点にダナン市を選ばれたのでしょうか。

きっかけは、19年にダナン市と「企業進出、人材育成・就職支援、観光促進」に関するMOU(基本合意書)を結んだことに始まります。ダナン市は、積極的に人材や観光のセルフプロモーションを実施していて、当社はベトナムに数々の接点があったことからとんとん拍子に話が進み、調印に至りました。調印のほぼ直後にコロナ禍となり、思うような活動ができなくなりましたが、本年度から本格的に動きを加速しています。まずはダナンのIT人材に淡路島へ来てもらい、働いていただくことから始めています。淡路島でプロフェッショナルの育成を進め、ダナンの企業でも活躍する人材を増やしたいと考えています。

今回、ダナン拠点開設のニュースをぜひポーターズマガジンに掲載したいと思い、ダナンへ来ました。

そうでしたか。はるばる東京からお越しいただき、ありがとうございます。ダナンは、当社が本部機能の一部を置く淡路島と似た特長があります。これからますます発展する勢いがある点と、リゾート環境です。この2つの特長は、学びや育成、働く場所として最適です。もちろん、東京のほうが経済は発展していますが、それは同時に飽和状態とも言えます。私はあえて淡路島やダナンなどを選び、そこからパソナグループ独自の成長戦略を発信したいと決意し、淡路島に本社機能の移転を進めると共に、今年はダナンに新たな拠点を開設しました。東京はすでに潤っていますが、淡路島やダナンはこれからです。勇気と戦略を持ち、膨張ではなく真の成長を目指します。パソナグループが新たな拠点によりどんな発展をしていくか、私は未来に思いを馳せてワクワクしています。開所式には100名近くのご来場を賜り、大変嬉しく思っております。

ダナンは淡路島と並ぶBPOの最適地

DXハブ ダナンと淡路ダナンセンターは密接に連携していくのですね。

おっしゃる通りです。淡路島は、日本の標準時間の基準となる東経135度にあります。関西三空港である関西国際空港・大阪国際空港(伊丹空港)・神戸空港、そして徳島空港の4空港を利用できるため、各空港から他国を往来するにも最適な場所です。現在すでに、様々な国から淡路島へ来た人が多数います。

スキル習得や労働のためとはいえ、異国の地への招致は簡単ではないと想像します。

そうですね。そのため当社は、淡路島での生活環境の整備から力を入れています。居住場所の確保はもちろん、インターナショナルスクールも開校し、家族で来てもらえる環境にしました。異国で働くには、移住地での居住年数を問われることがありますので、その点をカバーする意味も含みます。これらの設備や環境を東京で整えようとすると、淡路島に比べ莫大な費用がかかるでしょう。現在、淡路島では多国籍の社員が働いており、日本人社員の子どもたちもインターナショナルスクールに通っているので、みんな英語が上手です。

パソナグループは今後も、海外でのBPOに注力していきます。現在は、ベトナムですとハノイに2拠点、ホーチミンに2拠点、ダナンに1拠点の合計5拠点があります。アジア全体では、中国で3拠点、香港に2拠点、そして台湾に3拠点あり、他にインド8拠点、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアにそれぞれ1拠点ずつがあります。淡路島で教育と育成をし、各国へ送り出す事業を強化していきます。海外への人材紹介や就労支援となると、労働基準や移住ルールが国ごとに異なるため日本国内と同じとはいきませんが、これまでの海外ビジネスでの経験があれば、大きな問題ではないと考えています。

「日本で働きたい」と思える労働環境の整備が急務

現状、経済における日本のプレゼンスは下降しています。この点について南部様はどのようにお考えですか。

たしかに、日系企業で働く意義や魅力は以前ほどではなくなっています。一方で、海外の人たちは、条件さえ合えば日本で働きたい、日本へ行ってみたいと思っている人が多い。これは我々が現地の声を聞き、肌で感じています。日本で学べてグローバル水準の給与がもらえるなら、ぜひ日本で働きたいという人が大勢いるのです。実際、日系企業の収入とDX水準がグローバルレベルなら、働く国としてはかなり魅力的だと思います。日本国内にITボランティアセンターのような組織を作って活性化をするなど、日本で働いてもらう策はいくらでもあるはずです。

日本と母国の架け橋になる人材を育成

日本で働くIT人材を増やすことと海外で活躍する人材を増やすこと、どちらに重きを置いていらっしゃいますか?

どちらも重要です。海外の日本企業、海外のローカル企業、日本に来る海外企業など、どの企業への事業も強化します。これまでのベトナム事業は、オフショアのオペレーションがメインでしたが、今度はベトナムの人材を淡路島で受け入れてベトナムの企業へ送り出すといったパターンも増やし、淡路島がハブとなり、母国と日本との架け橋になってもらう人材を生み出していきます。現在は、就職支援だけでなく人材交流も手がけており、国際人材を適材適所に提供する事業の発展を目指しています。25年迄にDXハブダナンを500名体制にすると共に、淡路島でも多数のIT人材を受け入れられる教育体制を構築したいと考えています。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

淡路島にほど近い神戸空港は、30年をめどに国際便を就航する予定です。関西三空港も、30年をめどに成田空港と同じ便数へ増便すると発表しました。これに徳島空港も含めて海外からのアクセスが向上し、将来は大阪湾や瀬戸内海には世界を見据えた大きなクルージングボートが浮かぶでしょう。淡路島を、ダナンをはじめとする世界各国と繋がる、グローバルアイランドにしていきます。

I have a dream!