顧客満足の三本柱はモノづくりの理解・改善提案・育成力
パナソニックにおける製造アウトソーシング部門として2005年に設立、2015年にパーソルグループに加わり、リスタートしたパーソルファクトリーパートナーズ。パナソニックの「モノづくりDNA」を受け継ぎ、日本のモノづくり産業の発展に取り組む同社が、なぜ人材サービス機能の強化を目指すのか。2023年6月に代表取締役社長となった谷川裕二氏に、その実を聞いた。
「メイド・イン・ジャパン」のモノづくりと「真」の人材サービス事業の融合を実現すべく、代表取締役社長に就任
最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
パーソルファクトリーパートナーズ(以下PFA)は、2005年にパナソニックの製造アウトソーシング部門としてスタートし、2015年にパーソルグループに加わりました。現在も、製造アウトソーシング事業を軸に、日本のモノづくり産業の発展に取り組んでいます。
谷川様は23年6月に代表取締役に就任されました。これまでの経歴を教えていただけますか?
私は1994年に立命館大学を卒業後、約3年間は商社などの職を転々としていました。いま思えばいずれもいい会社でしたが、若かった私は、生意気にも会社を選んで渡り歩いていました。社会人4年目の97年にエクセルスタッフ(現パーソルエクセルHRパートナーズ 以下PHR)へ入社して以降は、人材業界に落ち着きました。入社から約10年間は事務派遣の営業を担当し、支店長や全社のシステム構築などを経験後、13年に同社取締役、15年に執行役員、23年4月にPHRの子会社であるパーソルファクトリーパートナーズ(以下PFA)の兼務出向顧問となり、同年6月、代表取締役社長に就任しました。15年頃からパーソルグループとの連携を通じてPFAには注目していましたが、モノづくり事業に直接関わり始めたのは今年の4月からです。
谷川様が代表取締役社長に選任された理由はお聞きになられましたか?
PFAはパナソニックからモノづくりの技能伝承を受けており、「モノづくり」に重要なQCDSを担保できる「モノづくり力」が大きな強みです。ただ、昨今の製造業の人材不足という課題に「モノづくり力」だけの強みでは解決できていないのが実情です。やはり、「モノづくり」に携わるスタッフが輝くことができる人材サービス機能の充実が必要と考えています。パーソルグループのビジョンである「はたらいて、笑おう。」をモノづくりのステージでも実現したい。そのためには、グループが持つ顧客・サービスの有効活用と連携推進を図りながら、「モノづくり+人材サービス」という大きな強みを生み出すことが私の使命だと考えています。
自分で言うのはおこがましいかもしれませんが、PFAの進化に必要なシナジーを生むには、さまざまな事業連携を推進してきた私が適任とのことから選ばれたのだと思います。
チーム運営の意識が高いスタッフ定着率を生む
御社の高い顧客満足度は、どのような点が評価につながっているとお考えですか?
「お客様と同じモノづくりの目線でスタッフをサポートする」「改善提案を能動的に行う組織風土がある」「充実した各種研修カリキュラムによる人材育成」の三点が弊社の強みです。請負サービスを中心に事業拡大してきたことから、人材派遣サービスにおいても指揮命令を取引先企業に任せっきりにせず、積極的にマネジメント介入するようにしています。お客様と共に現場を見ることで、スムーズかつ臨機応変な指揮が執れ、スタッフの不安や不満に早く気付いて改善もできます。スタッフをお客様の「モノづくり」を行うチームの一員と捉え、お客様の貴重な戦力として活躍してもらえるようにサポートすることを心がけており、技術・知識習得に意欲が高く、キャリアアップを目指すスタッフが多いのはその表れだと考えています。
「改善提案」では、スタッフ全員がもっと働きやすい職場にするため、能動的に提案を行っており、改善を小集団活動で実施する「QCサークル」活動も盛んです。毎年「QCサークル」の全社大会を開催し、パナソニックの「QCサークル大会」で受賞したこともあります。
「人材育成」では請負やEMS工場でのOJT、パナソニックOBの方のサポートによる各種研修Off-JTも充実しており、さまざまな国家資格者が活躍していることも顧客満足に繋がっていると思っています。また、安全にはかなり配慮しており、作業環境や作業内容に危険な箇所がないか現場をチェックし、危険要素を見つけたときは改善をお願いしています。この安全感度の高さはお客様にもスタッフにも評価いただいているポイントだと考えています。
今後はもっと沢山のお客様に弊社の強みをアピールしていけるように、これらを体系化した取り組みに進化させることが必要だと感じています。
御社は特に請負のスタッフ定着率が高いと聞いています。
領域によって差があるものの、請負事業の定着率は良く、請負スタッフのモノづくりや組織に対するチーム意識が高いからではないかと推測しています。取引先には数百人規模でスタッフが働く現場も複数あり、そこはリーダー、中間リーダー、先輩、同僚が集まった一つの組織になっています。ここでスタッフとして働きながら、先輩から技術や知識を教わりキャリアアップを目指すことができます。また、仕事のポジションが自分に合わないと感じた場合には、請負であれば現場内でのポジションチェンジが可能な点も要因としてあると思います。
さらに満足度を高める施策はありますか?
やはり、待遇の改善ですね。これは業界全体の話になると思いますが、やはり働く方々の待遇を上げ、人的資本への投資をしていかなければ人材不足の解消は難しいと考えます。部材や電気代の高騰で人にコストを割けないといったお話もお聞きすることがありますが、人件費を単なるコストだと考えてしまうと、いつまでも待遇をよくすることはできません。いい人材が集まればよりよい商品が作れ、単価を上げることができます。人件費を含めた必要原価から正当な売価を設定し、いい商品を適正な価格で販売できるよう、我々もその一員となって働きかけていく必要があります。一方で我々自身も今以上の改善提案、例えば業務の自動化等を手掛け10人でやっていた作業を9人以下でできるようにするなどの工夫が求められていると思います。
戦略の軸は人材確保。2030年までに就業スタッフ数を2倍に
中長期的な事業目標を教えてください。
事業規模の拡大はかなり意識しており、戦略の軸は人材確保だと思っています。具体的には、2030年までに現在の就業スタッフ数1万人を倍の2万人にしたいと考えています。これくらいの規模感でなければ価値を提供し続ける事業展開ができないと考えていますので、雲の上の数字ではなく、目指すべき指標にしています。
労働人口が減少する中でスタッフ数を倍にするために、どのような施策をお考えですか?
まず外せない取り組みは、外国人の受け入れです。弊社はベトナムとの関わりが多く、次いでミャンマーとの連携も強化しています。23年5月にはFPT大学ハノイ(ベトナムのIT技術大学)と提携し、日本語を学ぶ在校生を対象に、日本企業でのインターンシップや交流を通じて、日本で活躍するための就業支援を始めました。外国から日本に来る皆さんは本当によく働き、日本全国どこの配属でも活躍いただいています。弊社では、より多くの外国人材の活躍を支援するため、入国手続きから日常生活までサポートし、暮らしの不安なく働ける環境づくりを徹底しています。日常生活サポートは、住居の確保に始まり、日本での自転車の乗り方やゴミの分別、銀行口座の開設に至るまで、本当に細部まで支援し、少しでも生活面でのストレスを感じないよう努めています。
他に、スタッフの採用方法を常に見直し、アップデートしていく予定です。請負の場合の人材募集は「登録」ではなく「採用」です。「登録」と「採用」は、似て非なりで、ある意味「採用」はその時に仕事が決まらなければ、その後の接点がかなり薄くなってしまいます。人材サービスを強化するというのはこの「採用」を「登録」に変え、仕事が合わない場合は次の仕事を紹介する、この当たり前の機能を徹底的に強化していきます。
もう一つ、現在全国65拠点でパナソニックの工場を中心に事業をしておりますが、地域によっては特定の工場での地域内雇用シェアが非常に高い場合もあります。一方で、パナソニックに限らずですが、生産方針や工程、必要な労働人数などがガラリと変わることは多々あり、それにより雇用の状況が大きく変わることもあります。そのときスタッフの雇用確保に困らないように、より幅広い取引先企業を確保し、サポート体制を構築する必要性を感じています。
今後、サービスの追加はお考えですか?
まずは、モノづくりと請負事業のレベルを上げていくことが先決です。レベルを上げるとは、請負業務の遂行だけに終わらず、改善や提案ができる能力やEMS事業(受託生産)の拡大を指します。この能力が標準化されればモノづくりコンサルティングサービスが可能になり、コンサルティング担当や製造責任者としてキャリアアップする道にもつながりますので、特に注力したいと考えています。現在すでに、社員やスタッフから広く提案や意見を集めている工場もあります。意見を出せる環境であれば、業務改善意識が高まり、仕事のやりがいにつながります。人材育成などを通じてモノづくり力の向上を図り、事業拡大に取り組んでいきます。