「タイで頑張る日本人を応援する。」をモットーに。創業から30年

タイの人材紹介会社として、2024年に創業30周年を迎えるパーソネルコンサルタントマンパワータイランド。タイ進出やタイ人の採用を検討する日本企業の参考になればと、代表取締役社長の小田原靖氏にタイの現状や採用のポイントなどを語ってもらった。

タイ労働省から最優秀人材紹介会社の表彰を受ける

最初に、事業内容をお聞かせください。

弊社は「タイで頑張る日本人を応援する。」をモットーに掲げ、1994年に創業した人材紹介会社です。事業内容は、日系企業向けタイ人及び日本人のスタッフの紹介、通訳者・会計事務等の短期派遣業務、タイ語・日本語・英語の翻訳、レンタルオフィス運営、日本人及びタイ人向けセミナーの開催、ビジネスコンサルタントなどです。おかげさまで2008年と2011年にタイ労働省職業斡旋局から最優秀功労賞の表彰を受け、19年時点で総登録者数は15万人を突破しました。

30年前のタイで人材紹介業に着目したきっかけは何ですか。

米国の大学を卒業後、日本に近い東南アジアで求職活動を行っていた私は、比較的英語が通じるマレーシアにまず足がかりを求めました。ところが、思うように仕事が見つからず、やむを得ず鉄道で北上してタイへ。そこで出会ったのが、バンコクにある不動産会社の求人募集でした。ここから私のタイとの関係が始まります。

就職したその不動産会社では、タイに赴任してきた日系企業の駐在員向けにタイの物件を紹介していました。物件案内のときはお客様と何時間も一緒にいるため、物件以外の話も自然と交わされます。趣味やショッピングの話もあれば、仕事や経営の話までさまざまでした。

その中で多かったのが、求人についての悩み・相談でした。30年前のタイには、まだ人材紹介を手掛ける仕組みも無く、専門業者もおりませんでした。メーカーなど各社が銘銘の採用を行っており、人づてであったり縁故であったりと一貫性のない状態が続いていました。職を求める人々の希望やスキルと仕事の内容にもズレが生じます。離職率は高く、簡単な作業しか任せられないというのが現実でした。

お客様が悩んでいるのですから、その声を聞くのは当然です。こうして私が求人のお手伝いをするようになり、弊社の礎が生まれました。「タイに人材紹介会社があれば日系企業の躍進を応援できる」と考え、独立して1994年に創業しました。

居心地のいい労働環境にすること

タイにおける日系企業の求人競争力はどう変化しましたか。

創業当時は、優良な会社といえば日系企業を指すほど、日本の会社は良いイメージを持たれていました。給与面もタイ企業より厚遇で、福利厚生も整っていました。こうした中で弊社は、本人のスキルや希望を考慮しながら求人に合った人材を紹介していくことに努め、少しずつ信頼を得るようになっていきました。

 

しかしながら、現在は、優良企業がそのまま日系企業を意味することはかなり少なくなっています。タイはめざましい成長を続け、タイ資本の優良な企業も次々と登場しています。90年代に日系企業が育てた現地のビジネスパーソンが起業し、日系企業のライバル会社になっているケースさえあります。

こうした会社の中には、給与や将来性の面で日系企業より勝るところも少なくなく、日系企業は数ある優良企業の一部に過ぎないというほど市場は多様化しています。時代の変化とともに、優良企業イコール日系企業という印象を持つ人は企業側も求職者側も少なくなりました。

業種のトレンド変化はありますか。

20世紀末のタイ市場は、自動車産業を中心に製造業が牽引してきましたが、ここ10年間は小売りやサービス業といった業種の企業活動も盛んになっています。これらの中には多店舗化を目指すなど規模を拡大する動きもあって、成長著しい新業種も少なくありません。働く人々も、こうした業種を新たな魅力ある就労先の一つとして捉えるようになりました。労働市場の多様化が顕著となってきました。

その一方で、タイ人求職者が共通して抱く伝統的な価値観には、一貫して変わらぬものがあるというのが弊社の基本的な認識です。鍵となるのは「居心地が良いかどうか」ということ。タイ語で言えば「サバーイ」。これが離職を防ぐ唯一無二のキーワードと言っても良いのではないでしょうか。

例えば、会社は10年も経過すると社風が安定して人材が定着します。安定期を迎えた会社に就職時から、どのような会社なのか?居心地が良いか?を見て判断することができるので、離職率は低くなり、従業員はさらに定着します。社内環境対策に余念がない企業では、従業員の定着は更に進んでいきます。

つまり、従業員にとって少しでも早く「居心地の良い労働環境にすること」が離職の防止策となるのです。実際にこの点を意識している企業の離職率は低いというのが傾向としても見て取ることができます。

居心地の良さ、とは具体的にどのような環境でしょうか。

社内のコミュニケーションが取れ、風通しがいい環境だと思います。タイ人は心の触れ合いを大切にする人たちで、とにかく人と人とのコミュニケーションを大事にします。相手の目を見て話を聞き、ともに解決策を探っていく。仕事でもプライベートでも。この環境や体制が整っている会社は、なかなか人が辞めません。

離職が少なくなれば人材紹介業の機会も減っていくのではとご心配もいただきますが、それは異なります。弊社が求めているのは、取引先企業の成長です。優秀な人材が定着すれば、それは企業の飛躍につながります。企業が成長する過程では、必ず新たな雇用が生まれます。その際、また弊社を利用いただければありがたい、こう思っています。

会社も20年、30年目となると、はるか以前に弊社を活用して就職した人が管理職になったり、定年を迎えたりするケースも出てきます。そうした人たちと再び出会えるときは、感慨深いものがあります。長く働いていただける環境整備が何よりも大切だと実感する瞬間でもあります。

給与制度の見直しの時期に

日系企業がタイで勝ち残っていくにあたり、求められる労務対策は何でしょうか。

端的には答えにくい難しいテーマではありますが、一つに給与制度があるかと思います。とかく日系企業はタイでも同じように、給与については抑制的です。何事についても平均値や中央値を取る傾向が拭えません。初任給は日本人に比べてもかなり低く抑えられ、昇給に至っては年に2~3%と小刻みです。

成長著しいタイ企業や外国企業はそういう方法は採りません。能力が高く、あるいは実績がある人については厚遇で迎え入れるほか、昇給も20~30%と手厚く処遇します。現状では日系企業は太刀打ちできません。もちろん、結果が伴わなければ雇用が打ち切られるなどのリスクもありますが、タイの優秀な若者たちにとって、成長著しいタイ企業や外国企業を選ぶ傾向が強まっているのも事実なのです。

給与制度の改変には全体の見直しが必要となり、なかなか踏み込めないのが実情です。

日系企業としては、これまでの風習や人事制度もあり、仕事の成果で報酬の強弱をつけるといった方法に直ちに切り替えることは難しいというのも現実です。それでも、世界で競争していく以上、給与制度の見直しは避けて通れない喫緊の課題として浮上しているのではないでしょうか。能力のある人や、実績を残す人が国際水準に見合った給与を受け取れる方向に変えていく必要があると考えています。

そのためには企業側の採用体制も全面的に見直す必要があるかもしれません。優秀な人材を獲得できる企業はそうでない企業に比べ、採用者一人にかける予算に30~40%もの開きがあるというデータも存在します。しっかりとした採用体制を講じながら、国際基準に合致した給与体系で人材の獲得を行うことが求められています。大胆な雇用を行っているスタートアップ企業の動きなどは大いに参考になります。

「タイで頑張る日本人」と「日本で働きたいタイ人」を応援する企業であり続ける

アフターコロナを迎え、今後も中心となるのは人材紹介業ですか。

弊社が手掛けるレンタルオフィス事業や翻訳・通訳事業は人材紹介から派生したサービスで、中心となるのはやはり人材紹介事業です。タイでは業種に応じたライセンスが必要で、そのため弊社も事業ごとに別会社を設立して対応しています。

人材紹介業は、原則として対面で行う仕事です。コロナ禍のもとではそれが行えず、とても戸惑いました。ところが、弊社の若いスタッフが中心となってオンライン方式を取り入れるようになると、それまで見えなかった効果も見えるようになりました。オンライン面談の活用でスケジュール管理が円滑に進むようになり、遠方などの理由でこれまで面談ができなかった求職者のエントリーも増えるようになりました。

今後の決意を聞かせてください。

日系企業の競争力が低下したとはいえ、タイにおける日系企業はまだまだ数も多く、歴史もあります。日系企業で働きたいタイ人が急激な勢いで減少に転じているわけでもありません。日本の人材紹介会社は採用前後のサポートがしっかりしていると評価が高く、それが強みだとも思っております。

創業当初から弊社は「タイで頑張る日本人を応援する。」をモットーに掲げており、これについては今後も堅持していく考えです。近年は日本での就労を希望するタイ人の若者も増えており「日本で働きたいタイ人を応援する。」活動にも注力していきたいと思っています。この30年間で培ったノウハウと知見を最大限に活用し、日系企業とタイ人、タイ王国の発展に尽力してまいります。