面談15回、面談決定率72パーセント。伴走型エージェントのパイオニアを目指す

一人に対する面談回数15回、エントリーからの内定率は72パーセント(2021年/Izul調べ)という実績を持ち、リクルート社から最優秀エージェント賞を3年連続受賞した人材紹介会社がある。2017年に人材紹介事業を始めた株式会社Izul(イズル)だ。なぜ15回もの面談を重ねるのか。その非効率ともいえる方法でどのように事業を拡大するのか。代表取締役の中田潤一氏に聞いた。

多くの求職者がBESTの転職活動を行うためには、15回の面談と伴走が必要

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

Izulは、エントリー数よりも内定の質と確率に重きを置き、求職者や企業と伴走する人材紹介会社です。CxO、管理職クラスから若手メンバークラスまで年齢や領域を制限しておりませんが、ボリュームゾーンは20代半ばから30代前半です。転職を求職者の「点」ではなく「線」で捉え、求職者の価値観や真の希望を理解し、伴走して転職を成功させ、必要であればその後もサポートするスタイルにこだわっています。一人当たり約15回の面談を実施しており、初回の面談で求人票を提示することはありません。初回~3回目辺りは、求職者がどの程度自己分析できているか、仕事に対してどのようなモチベーションを持っているかなどを知る時間に充てます。4~6回目は履歴書や職務経歴書を一緒に作成し、7回目辺りでやっと具体的な求人の話をします。非常に労力と時間がかかり、けっして効率的ではありませんが、おかげさまでリクルート様から3期連続で最優秀エージェント賞を、2022年にラクス様からベストパートナーエージェント賞をいただきました。

受賞理由を教えていただけますか?

決定数を一定担保しつつ、紹介の質が高いと聞いています。転職を前提とせず、求職者の人生を主語にして伴走し、求職者、採用企業ともに満足できるマッチングを実現している点を評価いただきました。リクルート社のGE職(総合職)には全国から数多くの紹介が集まりますが、一定の紹介ボリュームがあるエージェントの中で内定率、決定率が3年連続で1番と聞いております。

「伴走型エージェントが求められている」と感じ人材業界へ

伴走にこだわる理由は?

採用は、スキルと価値観のマッチングで決まると考えています。同じキャリアやスキルでも、その人が生きてきたバックグラウンドによって考え方や価値観が異なります。例えば、高校時代に野球部で初のベスト8まで残った場合、それを喜ぶ人もいれば優勝できずに悔しくて泣いてしまう人もいます。この差は、生きてきた環境や価値観から生まれます。社会人の転職でも、例えば「もっと自分に負荷をかけてレベルをあげていきたい」という人の負荷のレベルは人によって違います。何度も困難に立ち向かい難題を乗り越えてきた人がさらに負荷をかけたい場合は、アセットに制限があるスタートアップ企業みたいな会社が良いかもしれません。一方で、これまで人生の中でのんびりやってきたから少し自分に負荷をかけてみたいという人にこういったスタートアップ企業を勧めるのはミスマッチにつながる可能性が高いです。

この場合は、労働時間や休日数などが現状と変わらない企業で少し頑張りが必要なセクションへ勧めるほうが適しています。前者も後者も同じ言葉で私達に思考を伝えようとしていただけるのですが、過去の価値観によって熱量や負荷の大きさが変わってきます。このように、人によって異なる思考やモチベーションの真意を理解し、分析してからマッチングさせるために、本人でも気づいていない価値観を捉えて伴走しています。こういった伴走を必要としている方が一定数いるから弊社は成長しているのですが、現状はそういった企業がほとんど存在しません。それなら、当社が伴走型モデルを創って社会に浸透させようと思っています。

私は大学時代、13社から内定をもらったことで周りから「就活の神童」と言われ、就活の相談を依頼されるようになりました。最初は趣味のレベルでしかなかったため、お金は頂かず行っていたのですが、就職後も仕事のかたわらで相談を受け続けていたため、私の能力が日々磨かれて、最終的には口コミで相談依頼がきて、3カ月待ちの状態にまでなりました。このときのコンサルティングがまさに伴走型で、かつ、同じような人材紹介会社はほとんどありませんでしたので、私の中で「伴走型のコンサルティングが社会に求められているのではないか」という思いが強まり、人材紹介業を始めました。

中田様のご経歴をお聞かせください。

私は大学卒業後キーエンスに入社し、3年半ほど営業職に従事しました。その後はサントリーホールディングス、アリババグループ、リクルート住まいカンパニー(現リクルート)と営業職で転職し、リクルート時代に兼業でIzulの代表取締役になりました。当時のIzulは人材紹介会社ではありませんでしたが、私が買い取って人材紹介事業会社にしました。独立ではなく買取にした理由は、リクルートに在籍しながら副業させてもらった恩があり、義理を通したかったからです。

人材紹介会社としてのスタートは2017年からで、最初は一人エージェントでした。当時から伴走型を世に浸透させたいと思っていましたが、一人でやっても「数あるエージェントのやり方の一つ」で終わってしまうと感じ、共感してくれる仲間を増やすことにしました。現在、コンサルタントは23名在籍しています。

「30人の壁*」目前ですね。

自律した優秀なコンサルタントばかり23名いますから、すでに壁にぶつかっています。各コンサルタントの個性を活かして業績を伸ばしてきたので、ここから組織運営へシフトするのは難しいでしょう。ただ、立ち上げから現在まで一貫して「伴走型のエージェントに興味がある人」に入社いただいているので、現状のスタイルのまま成長させることが理想です。

*小規模企業の社員が増え組織的な問題が出てくるときの人数の目安

どの程度の成長を見込んでいますか?

2年後には関連会社も含めて売上15億円を突破する予定です。いまの経営方針を変えず、です。一般的には15億円規模ともなると組織と数で勝負していくのでしょうし、それも必要なサービスだと思いますが、私は「人の介在価値」にこだわりたいので、あくまでも伴走型エージェントで成長を続けます。

優秀な求職者を集めるのではなく、
100%の状態にして送り出すことが介在価値

求職者と一緒に職務経歴書を作成するとのことですが、どのように共作しているか教えていただけますか?

通常、面接で持っている力を発揮できるのは30%程度と言われます。ここにエージェントの介在価値があると考えています。求職者は自己分析や仕事の棚卸しができていないことが多く、職務経歴書を自作してもらうと、本当の長所やスキルが十分に記載されていません。例えば、大手企業の営業職だった人のPRポイントが「とにかく数をこなせる」「お客様とすぐに仲良くなる」だったり。これでは採用されません。営業をかけるリスト作成の手順や、企業規模などのターゲットをどう見極めているかなど、細かな業務の一つひとつから個人の能力やスキルを可視化し、求職者が100%の力で面接に臨める状態まで導きます。合わせて、企業側と求職者の目線の高さを合わせる作業も我々の役割だと思っています。

企業側と求職者の目線の高さを合わせるとは?

企業側が求める人材の条件と、配属予定の部署に必要な仕事レベルが合っていないことがよくあります。必要なスキルセットがそもそも違う場合もあれば、企業が求めるほどのハイスキルは必要ないと思われるパターンもあります。後者の場合は、求めるレベルの人を探し続けても先が見えないので、まずは現時点ではスキル不足でも、いずれレベルアップしそうな人材で体制を整えて、イネーブルメント(成果起点での人材教育)に時間をかける方向へ舵を切るアドバイスなどもします。

専門性が高いハイクラスほど、スキルマッチの要素は強くなりますが、その分企業との価値観ミスマッチが発生しやすくなります。マッチしたとしても、スキルがある人でも、価値観が合わなければ短期で再び転職します。それなら、即戦力でなくても、価値観があう方で頑張れば求めるレベルに到達しそうな人を採用して育てたほうが長く働いてくれます。即戦力が見つかった場合も、継承者を採用しておいた方が安全です。

万全の状態で求職者を企業に送り出すことで、内定率72%が実現するのですね。

一部のエージェントでは求職者の内定率は10%以下という話も聞いた事もある中で、72%は当社独自の伴走型コンサルティングによるものと自負しております。初回面談から算出しても約40%です。よく「いい求職者を見つけるのがうまい」とご評価いただきますが、当社は求職者のよさを100%引き出した上で送り出しているだけ。来てくださる求職者は、他社と同じです。

自社採用基準は効率よく稼ぐことより介在価値をよろこべる人

御社のコンサルタントを採用する基準を教えてください。

ともに会社づくりをしたい意欲と、面接時に自分の経歴や仕事を構造的に語れるかどうかは、必ず見ています。また、当社の平均年収は1000万円以上ですが、どんどん稼ぎを増やせるビジネスモデルかというと、そうではありません。効率よく売り上げることより伴走を最優先しますので、この点に共感いただき、ともに成長し続けたいと思えるかが大事なポイントです。送り出した求職者から「あなた(コンサルタント)がいなければ、いまの活躍はなかった」と言ってもらえる瞬間と介在価値によろこびを感じ、楽しんでくださる人を採用しています。

しっかりコミュニケーションをとっているおかげか、現在の集客の70%はリファラル(紹介)です。取引先企業の人事担当者がプライベートのお友達を紹介してくださったり、ご自身の転職相談をしてくださったりすることもあります。

最後に、今後の人材紹介業界についてお感じのことを教えてください。

これからはAIが本格的に活用されてくる時代になってきます。その中で、AIが活用できない、独自性がない企業やコンサルタントが淘汰され、業界は再編されていくと思います。これまで一線で活躍してきた企業が時代に合わせた変化を求められる一方、新規参入企業や中小企業でも、時代とニーズに合った独自のサービス展開ができれば、大きく飛躍できるでしょう。当社はその渦の中で「伴走型エージェント」のパイオニアになるべく尽力します。