派遣会社から東北エリアの課題解決サポート企業へ

パーソルグループの中で東北地域の人材サービスに特化するパーソルテンプスタッフカメイ。同社の代表が2023年6月に交代し、新社長にはパーソルグループ内の複数企業の経営を任されてきた石黒和昭氏が就任した。けっして順風満帆とはいえない人材派遣業界の現在をどう捉え、どのように事業展開していく予定なのか。詳しく聞いた。

地元企業とともに東北の活性化に尽力することが使命

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

パーソルテンプスタッフカメイ株式会社は、東北6県に特化した人材サービス会社として1988年に設立し、今年で35周年を迎えました。(設立時の社名はテンプスタッフ・カメイ株式会社)設立以来ずっと東北エリアに根差した地域密着型のサービスを展開しており、東北ならではの特性を熟知している点が強みです。

石黒様のご経歴もお聞かせいただけますか。

私は1992年に新卒で千代田生命保険相互会社(現ジブラルタ生命保険株式会社)へ入社し、8年間在籍しました。2000年にテンプスタッフ株式会社(現パーソルテンプスタッフ株式会社)へ転職し、グループ内の複数の副社長や取締役などを務めた後、23年4月に当社顧問となり、同年6月に代表取締役社長へ就任しました。私は当社の8代目社長で、6代目まではテンプスタッフのフランチャイジーとして経営していましたが、事業規模拡大に伴い、7代目以降はパーソルグループから代表を選任しています。

石黒様がなぜ生命保険業界から人材業界へ転身されたか、気になります。

生命保険会社勤務の時代は、素晴らしい上司に恵まれ多くの勉強と経験をさせていただきました。そのうち、次第に金融業界の護送船団方式*が崩れだし、世の中は終身雇用制度の終焉に向かって走り出し始めました。経営や労働の在り方が再編されていく中で、自身の視野を広げる必要性を感じてたどり着いた先が、雇用再編における成長が見込まれる人材業界でした。複数の人材サービス会社の面接を受け、もっとも新しい感性を持ち、働く人ファーストの精神を感じたテンプスタッフに入社しました。

石黒様が代表に抜擢された理由はお聞きになられましたか?

明確な確認はしてはいませんが、おそらく私に合併会社の経営経験があった点と、父親が秋田県出身で私自身は山形県に赴任経験があるなど、東北エリアの特性を知っている点が理由ではないかと思います。

 

実際、東北には東北ならではの地域特性やビジネス課題があります。東北地域は現在、東日本大震災からの復興とコロナ禍からの復活、そして地方創生という3つの課題が絡み合っています。観光地や祭りが多い地域にもかかわらず、震災復興のさなかにコロナ禍が加わって経済が再び落ち込んだため、より一層の活性化が必要になりました。また、東北は支店経済地域で、東京や大阪が本社の企業が多く存在します。本社からの転勤者と地元の人とが協働しているため、転勤者が本社へ戻っても経済がまわる環境づくりが課題になっています。

*金融システムの安定化を目的とし、全体が足並みを揃える政策

我々は、派遣スタッフを派遣するだけでなく、グループ企業ならではの幅広いノウハウを駆使し、地元企業とともに東北を活性化することが使命だと考えています。東北は従業員数300名以下の会社が多い上、有効求人倍率が高く、新卒採用が難しい傾向にあります。一方で、人材は事業の規模に関わらず必要です。中小企業でも人材が必要なときに必要な人材を確保できる環境づくりをお手伝いすることも、当社の役割です。

グループ内事業の垣根を超え「ONE PERSOL(ワンパーソル)」で企業を支援

企業への派遣を「点」とすると、御社は課題解決という「線」で関わっていく体制なのですね。具体的な取り組み例を教えてください。

例えば、企業の人事部が抱える課題の一つに、新卒採用があります。新卒採用には、学生の母集団を作って面接を設定していく必要があります。内定を出した後も、入社までのフォローが発生します。採用時には、雇用手続きをしなければいけません。やっと終わったと思ったら、翌年の採用活動が始まります。この一連の業務は、採用代行や人材派遣などで支援することが可能です。当社だけでできない場合は、グループ企業と連携してサービスを提供します。

他にどのようなグループ企業との連携メリットやシナジーがありますか?

現在、パーソルテンプスタッフが東北以外を担当し、当社は東北を担当していますので、例えば東京本社の取引先様が東北で事業を始められる際に当社が動いたり、東北が拠点の取引先様の東京事業のサポートを東京の担当者に繋いだりしています。さらに、採用サイトの立ち上げサポートであれば、拠点を問わずサービス提供が可能です。このようなグループ内の事業を超えたサービス提供を、我々は「ONE PERSOL活動」と呼んでいます。グループ内事業同士の掛け算、東北の他業種との掛け算、強い思いと確実なノウハウとの掛け算、さまざまな掛け算をしながら、会社を強くするお手伝いをしていきます。

取引先の課題解決と発展が自社の成長につながる

石黒様が人材業界へ入られてからの23年間で、記憶に残る業界変化を教えてください。

圧倒的な変化は、雇用に関するさまざまな法改正です。日本社会における派遣の認知度が高まるにつれ、派遣労働に関する法律が制定され、度重なる改正もあります。ある時期、法律の適正運用に経営が耐え切れず、倒産する中小の派遣会社が数多くでました。すると、その派遣会社から派遣スタッフとして働いている方々が職を失います。そのとき当社が、職を失った方々の雇用を確保したことを、いまも覚えています。あの日から私はより一層、地域のため、働く人のための企業でありたいと思う気持ちが強くなりました。

派遣サービス以外の部分で、今後どのような事業展開を予定しておられますか?

一例としては、在宅勤務や育児をしながら働きたい方々を集め、業務委託等での仕事を紹介するサービスを具体化したいと思います。また、理系事務の派遣もスタートしました。食品開発補助、実験・分析補助、品質管理、栄養相談など、知識や経験を活かせるお仕事を開拓することにより、関東や東海エリアから転居してまで就業を希望される方も出てきています。

労働人口が不足する中、そう簡単に人が集まらないのではと邪推してしまいます……

たしかに、東北の有効求人倍率はバブル期以来の高水準です。令和4年有効求人倍率の全国平均は1.28倍であるのに対し、東北エリアは1.37倍と、採用が厳しい環境は続いています。少子高齢化という構造変化は言うまでもなく、在宅勤務、副業、ワーケーションなど様々な働き方が現実になり、企業側も対策の必要性に迫られています。その中で、当社を通じて働く方を増やすには、「この仕事がしたい」と思っていただける新たな職種や職場を生み出す必要があると考えています。ですが、今後は派遣就業者数を増やすことだけでなく、取引先様の成長と発展をお手伝いすることで自社の成長につなげたいと考えています。

例えば、ChatGPTを使って人手不足を解消し業務効率を改善したい企業があるとします。当社はChatGPTのシステム提供はできませんので、ノウハウを持った企業と導入したい企業をつないで、そこに必要な人材を当社から派遣するような方法で、取引先様と一緒に課題を解決していきます。

課題解決に対する営業担当者への評価制度はあるのでしょうか。正直なところ、成績にならなければ営業は動かないと思うのですが。

まず、プロジェクトの大枠部分については、営業担当者ではなく経営層が進めます。地域活性の協働の取り決めなど、プロジェクトの全体像ですね。その上で、営業担当者には賛同企業や自治体を探してもらい、そこで生まれた雇用と売上、行動に対して評価します。グループ間での紹介や新規契約が発生した場合も売上に応じて、手数料を算出し成績として反映します。また、グループ全体の表彰制度も設けています。これらの取り組みにより、取引先様が成長し、我々の業績も成長し、東北の経済が発展していきます。視野を広く持ちお客様の役に立つことで評価され、自身のスキルや、グループ全体の知識として蓄積されることが営業担当のモチベーションに繋がっています。

人材業界は、待っていれば企業から発注が来る時代ではなくなりました。当社の営業担当自らが企業の見えていなかった課題を能動的に見つけ、働く人にとって魅力的なポジションを生み出さなければ、人材は集まりません。魅力的な仕事の発掘と魅力的な人材を集める活動、そして適切な評価は、どれも手を抜いてはいけないのです。

「この会社でよかった」と思える職場環境づくりで100年企業を目指す

挙げていただいた新たな取り組み目標は、何年で達成する予定でしょうか。

3年から5年の間で達成するつもりです。当社は東北出身の人が多く、地元が抱える課題感や求められることを理解できている社員が多いので、地域に寄り添うスキルは高いと思います。また、当社で働き続けている人は、少なからず人材ビジネスに魅力を感じていて、発展させたいと思っています。あらためて仕事のモチベーションやポテンシャルについて語らずとも、社員自らが積極的にお客様に寄り添っています。私も営業に同行することがあるのですが、ありがたいことに多くの取引先様から「御社の営業担当者はいつも私たちに寄り添ってくれる」というお言葉をいただきます。互いの思いや意思が通じていれば地元企業との協働関係はより深まりますので、目標の実現はそう遠くない未来だと感じています。

最後に、今後の売上目標を教えてください。

2030年までに売上を現在の倍にすることが目標です。やみくもに売上を増やすことばかりに集中するのではなく、働く全スタッフが「この会社で働いてよかった」と思え、一度離れた人もまた戻ってきたくなる企業づくりに尽力します。それが、100年続く企業になるために必要な環境だと思っています。