知識・スキル・経験を売り買いできるスキルマーケット「ココナラ」がいま、個人取引の枠を超えて企業案件の取引数を伸ばしている。さらに2023年1月にはITフリーランス向け業務委託案件紹介サービス事業「ココナラテックエージェント」、10月には多言語化対応を本格始動した。ココナラが目指す成長の姿と企業取引のメリットについて、代表取締役社長CEOの鈴木歩氏に聞いた。

必要なスキルを単発依頼できる利便性により、企業からの発注が増加

最初に、鈴木様のご経歴をお聞かせください。

私は2006年に新卒でリクルートに入社してHRの企画職を3年経験し、その後はブライダル事業部、事業開発職、ホールディングスや海外の経営計画を担当したのち、16年にココナラへ入社しました。入社から半年後に執行役員、その半年後に取締役、20年に代表取締役社長となり、21年の上場を経て現在に至ります。

入社の経緯を教えていただけますか。

ちょっとしたきっかけから創業者の南とカジュアル面談する機会があり、初対面から4時間近く話し込んで盛り上がりました。その中でビジョンへの共感、CtoCプロダクトの面白さがありつつも、まだ20名弱の会社で未完成なところに介在価値が出せそうだと感じ惹かれました。リクルートは規模が大きく、事業部間の異動でも転職と同じレベルのインパクトがあるため、リクルート内での異動と会社自体を変えることに大きな差異を感じませんでした。

ココナラのサービス内容をお聞かせください。

ココナラは、知識・スキル・経験を売り買いできるWeb上のマーケットです。服や日用品をECサイトで買うことと同じように、デザインやSEOなどのスキルを売り買いでき、現在450万種類、79万件のサービスがあります。サービス提供開始時は「ワンコイン(500円)でスキルが買える」を売りにしていたため、占いや似顔絵など気軽に買えるサービスの出品が多かったのですが、徐々に提供スキルの幅が広がり、現在ではオリコン1位獲得経験がある作曲家や、大型フェスのTシャツのデザインを手がけたデザイナーなどもサービス提供しています。著名なクリエイターへも気軽に、かつ割安な価格で単発注文できるため、個人だけでなく企業からの発注も増えました。

会社の創業は2012年で、スタート時はヘルスケア事業の展開を検討していました。リサーチでヒアリングをしていたある日、取引先の管理栄養士さんがふと「持っている知識を多くの人に届けるプラットフォームがあればいいのに」と呟いた言葉がヒントとなり、スキル提供のマーケットプレイスはまだ日本で立ち上がっていなかったこともあってココナラを作りました。最初は「ワンコインでスキルが買える」と打ち出し、徐々に価格設定の自由度をあげ、アプリを開発、さらに見積もり相談機能や法人アカウント機能と機能開発を進めていきました。ユーザーの使いやすさを追求するため、弊社で働くメンバー200名のうち約半数がエンジニアです。

自由に価格を設定できると値下げ合戦になりそうです。何か対策はしていますか?

カテゴリー別の最低価格を決めています。例えば、ウェブサイト制作を500円なんて、あり得ませんよね。現実的な価格の最低ラインを常に市場をリサーチしココナラ内の価格と照らし設定しています。

企業はどのような発注をしますか?

企業様のビジネス利用では、ロゴデザイン、HP制作、アプリ開発、動画制作、パンフレットデザイン、記事ライティング、資料作成など発注は多岐にわたります。ココナラの強みの一つである、必要なスキルだけを単発で依頼できる特長をうまく活用いただいていると思います。実は、当社のカルチャーブックのデザインやイラストも、ココナラの出品者様にお願いしました。また、23年10月から始めた在宅の業務委託サービス「ココナラアシスト」では、手間のかかる日常業務や、1人雇うほどではない専門業務などを、フルリモートの優秀なアシスタントにまるっとお任せできます。採用周りでいうと、採用プロセス代行の発注が増えています。他に、ITフリーランスと企業の業務委託案件をつなぐ「ココナラテックエージェント」では、スキルマーケットの単発発注型とは違う、プロジェクトや時間単位での受発注を可能にしました。

具体的な企業からの発注例を教えてください。

例えばパーソルキャリア様からは、マンパワー不足時に、作成した資料をブラッシュアップするご依頼がありました。費用を抑えてスピーディーにピンポイントでプロに依頼できるという理由で当社サービスを選んでくださいました。

ケンミン食品様は、これまで予算がかけられない制作物は自社で作っていたところを、ココナラであればプロのデザイナーに数千円からお願いできるので利用してくださるようになったと聞きました。自社スタッフが本業に集中できるようになった点もメリットだそうです。

《企業発注5つのメリット》
①全国のプロ人材に発注できる
②単発オンラインで依頼できる
③数千円から100万円まで幅広い価格帯から比較検討できる
④社員の業務効率化を支援し本業に集中できる
⑤販促手段やツールデザインなどの事業における打ち手の幅が広がる

あらゆる人に機会を提供することが使命

ココナラテックエージェントは人材派遣の領域でレッドオーシャンだと思います。それでもローンチした理由は何ですか?

ココナラでできないことをなくす意図があります。当社は一つひとつの領域で 業界1番になる発想はなく、すべてが揃うサービスプラットフォームにしたいと思っています。これまで通り単発の受発注しかやらないという姿勢ではなく、時間や月単位の取引ニーズがあれば、それに応える。その結果がテックエージェントです。

いま特に注力する領域はありますか?

全部です。当社は「あらゆる人に機会を提供する」ことが使命ですから、あらゆるサービスの存在そのものに価値があります。創業時は、なんでも屋では成功しないと周囲に言われましたが、現在はなんでもあることが魅力となっています。ただ、カテゴリーごとにユーザーの特徴が大きく異なるので、マーケティングや広告コピーが難しいという側面があり、課題でもあります。

今後、拡大する予定の事業があれば教えてください。

まず、多言語化対応により、世界に取引を拡大していきたいと考えています。すでに、アニメやイラストなど日本カルチャーを求めて海外の購入者が増えています。また、留学時のコンサルや受験対策、日本旅行の観光ガイドなどのサービスも人気です。23年10月からは海外向けの取引方法を本格化しました。言語は英語、韓国語、中国語に対応しており、決済は世界で3億人以上が利用するPayPalのサービスを導入しました。

また、今年設立予定の「株式会社みずほココナラ」で、地方など人材不足が深刻化する企業様にココナラを通じて専門人材を提供していきたいと考えています。

新規事業のスタート時はどのような営業をしていますか?

実は、当社はこれまで営業組織が存在しませんでした。商売の世界では「どんなに商品がよくても営業しないと売れない」と言われますが、当社はテックカンパニーとしてよいプロダクトを作ってマーケティングドリブンで推進してきました。ユーザーの声を受けてのプロダクト改善や、全く新しいプロダクト開発を中心にテクノロジーを起点にレッドオーシャンを勝ち切りたいと考えています。

とはいえ、なんでもIT技術や定量データに頼ることがベストとは考えていません。お客様の意見やアンケートといった生の声からは、集計データからは見えてこない本音が見えてきます。例えば、自社サイトの下部に「ご意見ボックス」を設けています。匿名で言いっぱなしができるため、本当にさまざまな視点からのご意見をいただけます。

ココナラの成長が人や企業を豊かにする

DX化が進み、人や企業の介在価値が問われています。自社の介在価値をどのようにお考えでしょうか。

当社は「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」というビジョンをただ忠実に実施し続けています。「あらゆる人に機会を提供する」というミッションのもと、サービスを出品する人も購入する人も、個人も法人も、アマチュアもプロも、誰もがバッターボックスに立てるプラットフォームを今後も作り続けます。

当社の成長は、スキル提供者の報酬が増えたことを意味し、提供を受けた人や企業は誰かのスキルを借りて目的を達成できたことになるので、三方よしです。つまり、私たちがシンプルに売上を作り成長していくことで、社会が豊かになると思っています。

リモートワークが多い御社において、ビジョンやミッションを社員に浸透させる工夫がありましたら教えてください。

カルチャーブックで共有をしています。ミッションとビジョンに基づいた「One Team, for Mission」、「Beyond Borders」、「Fairness Mind」という3つのバリューがあり、イラストを加えてさらに細かく説明することで、できるだけ解釈が統一されるよう工夫しています。人事評価の約半分をバリューの体現度にするほど大切な価値観です。私たちは、自社を最高の組織にすることを目指していません。社会に役立つミッションを成し遂げるために存在しています。

最後に、今後の目標数値があれば教えてください。

ユーザー数を、現在の423万人から数千万人規模に拡大することが目標です。そのためには、ココナラを利用すればあらゆるサービスがワンストップで完結するプラットフォームになる必要があると考えています。ワンストップになれば、サービス提供側の実績や評価もココナラに集積でき、提供者はサイトごとに評価が分散されることなく、ココナラにすべての実績や評価をまとめることが可能になります。ビジョンにあるように、あらゆる人に、より多様な機会を提供できるプラットフォームに成長していきたいです。