第4次産業革命を生き抜く秘訣は経営層のDX脳にある

第4次産業革命時代に突入して久しい。社会全体のDX化が急がれる一方で、DXへの理解はまだまだ十分とはいえない。今後、企業はDXとどのように向き合えばいいのだろうか。約30年にわたりITの世界を見てきた、オープンアップグループのDX推進部門長で同社執行役員の加藤昭仁氏に聞いた。

人材派遣業は労働人口減少対策に直接関われる貴重な業界

加藤様は長くIT領域に携わってこられたと聞きました。これまでのご経歴を教えていただけますか。

私は1994年にプロミス(現SMBCコンシューマーファイナンス)へ入社し、約12年間在籍しました。その後はチューリッヒ保険会社、日本アイ・ビー・エム、マスミューチュアル生命保険(現ニッセイ・ウェルス生命保険)で管理職を経験しました。キャリアとしては金融機関のIT部門がもっとも長く、金融業界ITのトップを目指して仕事にまい進していました。後にその目標がかない、今後は自分のためではなく人のために尽力したい気持ちが強くなったタイミングで、オープンアップグループのDX進部門長に就任しました。

金融業界でも人のための仕事はできたと想像します。なぜ人材業界のオープンアップグループを選択したのですか?

自分に何ができるかを考えるにあたり社会全体を見渡したとき、労働人口の減少が大きな課題だと感じました。金融業界でも関われる事業はありますが、それらの多くは資金提供など間接的なものです。もっと直接的な貢献がしたいと思ったとき、私にとっては人材業界が最適でした。

オープンアップグループの事業内容もお聞かせください。

オープンアップグループは、未経験を育て成長を支援する点にこだわりをもつ、エンジニア派遣会社です。2021年にビーネックスグループと夢真ホールディングスを合併して夢真ビーネックスグループ(現・当社)となり、エス・ビー・オーを子会社化した後、23年にオープンアップグループとなりました。23年11月時点で、オープンアップグループの事業会社は20都道府県40地域、合計82拠点となりました。

加藤様はいつからジョインされましたか?

私は22年4月にDX推進部門長として入社しました。当社へ来た理由は、グループのDX化を目的としたDX専門部署の立ち上げと運営です。当社にはこれまでもITの専門部署が存在したものの、それは社内の効率化をメインとする技術集団でした。技術のスペシャリストはもちろん大切な人材ですが、DXに必要なスキルは技術力よりも発想力や改革力、リーダーシップに重きを置きます。そのため、外部から私が呼ばれ、DX推進を担当する運びとなりました。

技術者の増加と成長が社の成長に直結

DX推進部門長ご就任から現在までに起きたDX面での社内変化を教えていただけますか。

現在はグループ全体の組織改革の真っ最中で、過渡期にあります。当社はビーネックスと夢真が統合した会社ですので、それぞれが違うシステムと組織でこれまで運営してきました。システムは単純に統合して済むものではなく、残すもの、なくすもの、統合するものを取捨選択しながら再編する必要があり、まだまだ時間を要します。

社内のDX推進における現時点での課題は何でしょうか。

グループ内の事業会社ごとに異なるシステムの設計思想を、どう取りまとめるかが課題です。システム統合するとなれば、それなりに投資が必要になります。また、企業ごとにカルチャーが異なりますから、いずれかの会社に寄せようとすれば、他社にストレスがかかります。当社の場合は、統合とDX化の同時進行が注力ポイントになります。

当社は現在、DX化を4つのカテゴリーに沿って進めています。1つ目は社内業務の効率化、2つ目はデータドリブン(データに基づく意思決定)、3つ目は既存サービス拡充やカスタマーエクスペリエンス向上、4つ目は事業変革および新規事業です。1から4の順に難しい取り組みとなります。特に新規事業については、中長期的にじっくり進めていく予定です。

また、DX化により自社の技術社員へのサービスも充実させたいと考えています。当社のダイレクトなお客様は派遣先の企業ですが、我々の事業は技術社員がいなければ成り立ちませんから、いわば社員もお客様です。技術者が増え、成長し、単価がアップしていくことでビジネスが成長していくと考えています。

具体的な取り組みを教えていただけますか。

コミュニケーション設計の見直しは取り組みの一つです。例えば、営業部が技術社員をアサインする際、営業社員は派遣先の企業の要望を叶えることを優先しがちです。ですが、その結果として技術社員が意図しないプロジェクトにアサインされ、辞めていくような事案が発生します。このようなコミュニケーションのすれ違いがおきないよう、システムを活用して改善する取り組みを始めました。この点は、効率化を図るIT化とは違う、DX側の役割です。技術社員の定着については、第三者を入れた本音調査を実施しています。研究の名目で退職希望者を取材し、辞めたい理由を聞きだします。会社には建前の理由を話していても、第三者には本音で話してくれますので。意外にも「通勤時間が長い」などシンプルな理由が多いと知り、驚きました。

DX化により企業は独占の時代からシェアの時代へ

DXを推進するには部署や事業を超えた横の連携が必要ですね。

おっしゃる通り、横の連携は当然ながら必要です。例えば、フードデリバリーの事業を立ち上げるときにデリバリーシステムを構築するのはIT部門ですが、事業を考案してサービスを立ち上げるのはDX推進や企画の部門が行います。得意分野の連携がなければ事業は拡大できません。

私が就任してからですと、弊社の事業会社を横断してプロジェクトを統括するようになりました。プロジェクトのマネジメント能力の高いIT部門の担当者が中心となって進めていることも多くなりました。やはり、DXを推進していくには、ToBeを実現するためのITの知識や経験は必要です。それに加え、今後は既存事業だけでなく、事業変革や新規事業を立ち上げるためには、経営視点が必要です。

DX化にはマネジメント経験のある人が必須、ということですね。

高く広い観点が必要で、なおかつ物事を大局的に見られる人でなければ務まりません。DXは効率化ではなく、抜本的な改革です。何が課題で、その課題を解決するためのソリューションとしてどうDX化するかの視点が必要です。そのため、大きなプロジェクトのトップは、他社の取締役や執行役員を経験した方を積極的に採用しています。

DXは業界全体の必須課題ですが、加藤様の目には現状がどのように映っていますか?

いま日本は第4次産業革命時代です。第1次は、18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化、第2次は20世紀初頭の電力を用いた大量生産、第3次は1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いたオートメーション化、そして第4次はATやIoT、ビッグデータなどIT技術によるDX化をいいます。それはつまり、DX化を当然のごとく実行しなければ生き残れないことを意味します。極端な例をいえば、車が普及したのに車を使わないで運送業をしても事業は成長しないイメージです。

さらにDX化は、各企業が一社で頑張るだけではなく、業界全体で取り組む課題です。これまでは、企業ごとの技術やスキルを持ち寄り、横の繋がりを強化し人材業界のエコシステムをつくることで、各企業が個別に努力して成長してきましたが、これからは各社の個性を掛け合わせ、大きな革命を起こす時代だと思います。

現在、当社と近い規模の派遣企業に話を持ち掛け、競争から共創の時代へ進化する方法を模索し始めています。身近なところでは、例えば請求書などバックヤード業務のスマート化は企業の垣根を超えてシェアできる取り組みで、仕組みができれば、自社で開発する費用を抑えて小規模企業にも使っていただくことが可能になります。このように、今後は競争する部分と共創できる部分をうまく棲み分けることがポイントになります。

ただ、企業のDX化は経営者の理解なしには進みません。「もともとあるIT門にDX推進を任せれば大丈夫」とお考えの人が少なからずいらっしゃいますが、誰もが向いているかというと違います。DX推進には、企画を具現化し行動を起こせる人材が必要です。ここを間違うと担当者のミスマッチが起こり、働く人たちのストレスになるばかりで、イノベーションにつながりません。また、DX化を推進すると今までのやり方からの変化に対して必ず社内の反対がありますので、社員が納得して共に推進できる環境を整えるためにも、経営者自らの理解と統率が欠かせません。

DX化を妨げる要因の一つに、日本企業の人事評価が減点方式である点が考えられます。突飛なアクションをして失敗することが許されない雰囲気なのです。これでは、イノベーションは起きません。イノベーションを起こすには、100個のアイディアのうち1つ成功すればいいほうです。どんどんトライアンドエラーができる環境づくり、そして外部の意見を積極的に取り入れて新しい風が入る社風づくりが、DX化のコツだと思います。