高校新卒が若手人材採用の新たな道に

「新卒」と聞くと、大学卒をイメージし、高校卒には思いが及ばない人も多いだろう。一方で、高校新卒は若手採用の新たな手段として注目されつつある。今回は、高校新卒・第二新卒に特化した採用支援サービスを提供するジンジブの取締役星野圭美氏に、高校新卒採用の意義やメリットなどについて聞いた。

高校新卒は内定辞退がほとんどない

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ジンジブは、高校生の就職を支援する就職情報サイト「ジョブドラフトNavi」の運営をはじめとした、企業への高校新卒支援をメインに行う会社です。ジョブドラフトでは、就職に関する幅広い情報提供の他、全国10都市以上で国内最大級の高校生向け合同企業説明会を開催しています。

エントリーから採用までの流れは、大卒と異なりますか。

はい。高校生は、学校斡旋が一般的です。学校が生徒と企業との間に入り、企業とのやり取りや、生徒への就職活動指導を行います。学校が仲介する理由は、学業優先である点と、仕事に関する知識や経験に乏しい高校生が適切な職業選択ができるようにするためです。中には、学校を介さずに、高校生自身が企業と直接やり取りをして就職活動をするケースもありますが、かなり少数です。

高校生を採用したい企業は、求人情報をハローワークに申請し、高校生専用の求人票を作成します。求人票を提出すると、「高卒就職情報WEB提供サービス」や求人票に落とし込まれ、学校に求人情報が届きます。ジョブドラフトの掲載企業様にも、ハローワークで求人票を作成していただき、学校斡旋での採用活動をお願いしています。そのためジョブドラフトでは、現状、学生が企業へ直接応募することはできない仕様になっており、高校の先生経由で職場見学の問合せや応募書類の送付を企業へしていただく形をとっています。

求人に対する生徒の応募は、9月から可能になります。多くの都道府県で応募は原則1人1社で、10月や11月になると2社まで可能になります(都道府県によって条件が異なる)。学校の推薦状を持って応募するため、内定辞退はほとんどありません。

内定辞退がほとんどない点は魅力です。就職後の離職率は大卒と違いますか?

厚生労働省のデータ*によると、大卒の1年以内離職率が12.0パーセントに対し、高卒は17.8パーセントです。一方で、2年目や3年目の離職率で見ると、双方の差は1パーセント以内が近年の傾向です。
*厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者の状況)』

高校生の就職活動は、学校斡旋の場合は1人1社制ですから、大卒のように他社と比較しながらの企業選定がしにくいです。また、求人票に「企業の社風・文化」などの記載が少なく、条件と給与などの待遇面を見て選択するしかありません。さらに、高校生は7月から9月の間で応募する企業を決めなければなりません。このような状況で就職先を決定した高校生がミスマッチを起こし、超早期に会社に馴染めず離職してしまう点が、大卒と比較した際の課題の一つと言えるかもしれません。

高卒の入社後定着率を上げるための御社の取り組みを教えてください。

採用企業様に対しては、セミナーを通して、高校新卒者のモチベーションや不安、課題などについての情報をお知らせするとともに、「入社時は基本的に20才未満なのでお酒を勧めない」などの注意点をお話しています。

学生に対しては、採用企業に代わって新人育成研修+定着支援プログラム「ルーキーズクラブ」を提供しています。高校新卒ならではの注意点を押さえたプログラムを組み、月に1回、1年を通した集合研修を実施して受講生の成長や変化を見守ります。研修では、社会人の心構えやマナー、キャリアプランを始め、やる気がなくなるメカニズムや伝わる相談の方法など、細部にわたり講師がレクチャーしチーム内でグループワークを行います。さらに、新卒社員研修の様子やメンタルの状況などは毎月チェックし、採用企業の人事担当者へ定期的にレポートします。

参加した受講生からは、「相談の大切さと相談するスキルが身に付いた」「社会人としての礼儀と言葉使いを学べた」などの感想が寄せられています。職場に同期が少ない人にとっては、会社では話せない仕事のやりがいや悩みなどを打ち明ける場にもなっている様子です。企業の人事担当者様からも、「新卒入社が1名だったので、ルーキーズクラブで他社の同期と一緒に研修してもらえてよかった」「自社研修で足りない部分を補ってもらえた」「社会人として成長した」「毎月のレポートで本人の気持ちを知ることができた」などの声をいただいております。

高校生は若くて素直で理解と吸収が早い

学校が就職の仲介をするとなると、担当教員がいかに企業や生徒を理解しているかが大きく影響すると想像します。教員に対するサポートはしていらっしゃいますか?

生徒のことは教員の皆様のほうが理解していらっしゃると思いますが、各職業の内容については、知る機会が少ないと感じています。教員向けの職業体験会を例年2月にイベントとして開催しており、実際に機械に触れたり業務体験をしていただいたりしながら、仕事の内容や生徒との相性を見てもらいます。これにより、教員が仕事の内容をより具体的に生徒に伝えられるようになります。

高校新卒の魅力やメリットは何でしょうか。

まず、若くてエネルギッシュ。そして、素直で発想が柔軟です。高校生にとっては、仕事をすること自体が新鮮なので、テレアポや現場研修などに取り組む熱量が高いです。弊社の新卒研修では、大卒・高卒合同のテレアポ研修を実施するのですが、実績1位はいつも高卒です。高卒者は総じて覚えや吸収が早く、金額や件数目標を達成する意欲も強い。デジタルネイティブ世代であることも大きな強みです。

また、高校生の就活は9月からですので、企業にとっては、大卒人数が定員に足りなかった場合に、高校生採用で補えます。高校生は複数社の内定を見比べることがなく、内定辞退が基本的にありませんので、人事担当者の工数削減にもなります。

御社にも高校新卒の社員がいらっしゃいますか?

もちろんです。高卒1期生の3名は現在25才で、それぞれ支店長や課長などの役職に就いています。10代で社会人になることで早くキャリアアップできる点は、高卒者にとってメリットです。

御社が高校新卒にこだわる理由は何でしょうか。

代表取締役の佐々木自身が高卒で、支援の機会や場所が少なく就職先を探すことに苦労したことに起因しています。佐々木が創業した当時は携帯電話販売会社向けの広告代理店でしたが、後にグループ会社としてジンジブを設立、2020年には屋号をジンジブへ統一し、広告代理店業を辞めて高卒専門の人材支援サービス会社へ完全転業しました。

星野様はどのような経緯でジンジブへ入社されましたか?

 私は03年に大学を卒業し、大卒新卒採用を支援するコンサルティング会社に就職しました。そのときの営業先の一人が当社代表の佐々木で、当時は新卒採用を検討していませんでしたが1年半アプローチし続け、新卒採用をしてもらいました。実は、その1期生が現在の専務です。その後、2014年に人材支援事業を始めるタイミングでお声がかかり、現在に至ります。

高校生版の就活フェア開催で「キャリア教育アワード」優秀賞を受賞

御社の認知度を上げるためにどのような取り組みをしていますか?

コマーシャルを出していた時期もありましたが、現在はSNSでの発信に注力しています。加えて、学校や企業とリアルな接点を持つ活動にも力を入れています。高校生向けの仕事体験イベント「おしごとフェア」や合同企業説明会「ジョブドラフトFes」、将来を自分で考えるきっかけを提供する「ジョブドラフトCareer」などがあり、これらの取り組みは、経済産業省が主催する「第13回キャリア教育アワード 中小企業の部」にて優秀賞に選ばれました。

高校新卒の先輩を呼んで体験談を話してもらう授業を実施することもあります。高校生にとっては、年齢が離れた大人が話すレクチャーよりも年齢の近い先輩の実体験のほうがイメージしやすく、より働く意欲に繋がるようです。

今後さらに注力していく取り組みはありますか?

高卒の第二新卒者や既卒者を対象にした「ジョブドラフトNext」事業を拡大する予定です。高卒者が離職すると、大卒者以上に再就職の道が限定されます。高卒層に特化したセカンドキャリア支援として22年から本格始動しました。

最後に、今後の展望があればお聞かせください。

現在9拠点で事業展開していますが、既存の支援のエリアを拡充しつつ、今の高卒若年層が社会で活躍するためのサービスを拡充していきます。

高校新卒採用は、それ自体が概念にない企業様も多く、念頭にあったとしても、大卒採用とはノウハウが異なるため、着手しにくい現状があります。一方で、人材不足の日本における若手採用の新たな道として、有力な手段になります。また、多様性の意味でも、国籍やジェンダーと同じように、高校新卒者が自分らしく活躍できる仕事を選択できる社会にしたいと考えています。