採用のプロフェッショナルから見た派遣ビジネスの多様化

中途採用支援・求人広告事業を主要事業として、2000年11月に新卒9名で設立した株式会社ネオキャリア。度重なる経営的な困難に直面したものの、誰もリストラすることなく今日まで躍進を続け、18年に売上高500億円を突破した。今回は、06年入社で現在は事業の最高責任者であり取締役COOの小櫃靖也氏に、逆境を乗り越えるネオキャリアの突破力と、採用のプロフェッショナルから見た派遣ビジネスの可能性について聞いた。

「人材」「メディア」「ヘルスケア」の3領域で 採用をフルサポート

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ネオキャリアは、2000年に設立した総合人材サービス会社です。設立時は中途採用支援と求人広告事業のみでしたが、徐々にサービスを拡充し、現在は一般事務、コールセンター、介護、保育、エンジニア、建設の人材派遣事業の他に、求人広告のメディア運営や人材紹介事業、BPO(業務代行)、システム開発、事業開発支援、ヘルスケア領域の施設運営など幅広く手掛けています。

これまで当社は、事業を「人材」「メディア」「施設」にセグメントしていましたが、カテゴリー基準をモノからサービスに変更し、それぞれのサービス拡大とシナジー効果を期待する意味を込めて、24年3月からセグメントを「人材」「メディア」「ヘルスケア」 へ変更しました。

「人材」は、派遣や新卒・中途、バイリンガル人材の紹介などのサービスで、アジア各国における中途人材紹介も含みます。派遣事業は、「介護」「一般事務・コールセンター」「エンジニア」の3領域で、事業売上の90パーセント近くを占めます。建設派遣とエンジニア派遣、アジア各国における中途人材紹介はグループ会社が運営しています。

「メディア」は、新卒・中途・アルバイトの採用における総合求人広告事業を指し、代理店としては日本で最大級のサービスラインナップを持っています。具体的には、複数の就職サイトやダイレクトリクルーティング系サービスの総合代理店で、就活イベントも当社で扱っています。

 「ヘルスケア」は、介護職や保育職の派遣と紹介、求人広告に加え、施設も運営しています。現時点で運営しているのは、介護施設が6施設、保育施設が10施設、学童施設が4施設あり、学童施設は24年4月に1施設加わる予定です。

派遣市場はどのように変わっていくと想定しますか?

派遣はこれまで「人手が足りない時のスポット対応」という認識を持たれがちでしたが、今後は正社員採用と同様、派遣も採用戦略の一手となり、派遣へのニーズが多様化すると考えています。同時に、企業は派遣スタッフであっても「長く働ける人」を求める傾向が強まると想定します。

派遣における御社の強みをお聞かせください。

例えば、介護派遣においては、介護の有資格者に限らず、無資格者や未経験者まで幅広く受け付けており、資格取得から介護業務のキャリア形成までサポートしています。建設派遣では、営業担当だけではなく、技術者サポート担当の2名体制で、派遣した技術者の定着をフォローし、技術者の希望をヒアリングしながら中長期的なキャリアビジョンを一緒に考えるところまで伴走しています。加えて、資格手当も充実させており、2級施工管理技士で月3万円、1級施工管理技士になると月5万円の資格手当を支給しています。

人材の定着には経営戦略を見据えた計画を

人材を定着させるために採用企業ができる取り組みや考え方があれば教えてください。

企業の採用活動が、採用するまでが目標になってしまっている企業も少なからずあるように思っています。そのため、PURPOSE(パーパス)や経営課題の共有が、採用担当者内できちんとできていないまま人材を採用し、結果としてせっかく採用した人材が早期離職してしまうケースが少なくありません。また、うまく求める人材を採用できなければ、人材会社を変える手があるにも関わらず、手間や工数が増えるため、踏み込めない採用担当者も散見します。

派遣についても同じです。以前は、派遣を受け入れる企業は、労働力として人の数を集めればよく、働く側もとにかくお金になればいいと考える人が多かったです。しかし、人手不足のいまは「楽しく働ける環境」でなければ人は集まりませんし、続きません。この点を人事担当者が理解して採用業務をアップデートし、「働きたくなる職場」を意識して業務を進めるだけでも、採用人数と質はかなり変わります。同時に、経営幹部は、採用後も社員を育成して定着させ、会社に貢献してもらうところまでを見据えられるような、人事部の評価や予算の見直しが必要です。

人材定着に対し、御社が企業に提供している取り組みやアドバイスをお聞かせください。

弊社では、派遣スタッフが働きやすいと感じているかなどを企業とすり合わせる専任の担当者がいます。離職率が高いなど課題がある企業には、建設現場やコールセンターなどで営業担当者が現場で働いて、その理由を探ります。本音は聞くだけでは見えないものであり、実際に働くことで課題の原因が明らかになることが多いからです。要するに、派遣スタッフが派遣先企業に就職したいと希望すれば送り出すなど、とにかく派遣スタッフが「ここで働きたい」と思える環境づくりに徹しているのです。手間暇はかかりますが、これにより生まれるお客様との信頼関係は計り知れません。

リーマン・ショックの影響を受けてもリストラゼロを実現できた理由

小櫃様はどのような経緯で人材ビジネスに魅力を感じたのでしょうか。

高校時代にアルバイトをしていたガソリンスタンドで、お客様によいサービスを提供して喜んでもらうことを意識し、オイル交換や車検のオプション営業を頑張り、アルバイトの中で売上ナンバーワンになりました。その時、「働くのは楽しい」と思ったことから、「労働は生活のための苦行ではなく、成長したりやりがいを見つけたりするための非常に重要な時間だ」と世の中の人々に伝えられたらと思うようになり、人材業界を志しました。

大学時代には多数の経営者に会い、「人・物・金・情報」のうち困っている項目を聞いて回りました。答えは、「金」と「人」でした。「金」は、資金繰りや経費削減、利益率アップなどで、「人」は、採用・育成・定着・組織の活性化が課題でした。多数の経営者に会い、話しを聞く中で、売上にせよプロダクトにせよ、すべては「人」から始まると気付いたのです。採用や育成などの人材支援は、経営支援とイコールだと知った私は、ますます人材業界に魅力を感じました。

小櫃様は新卒入社4年目で新規拠点の立ち上げを任されるようになったそうですね。抜擢された理由は聞いていますか?

タイミングがよかった点もありますが、入社1年目から売上がよく、オーナーシップマインドが高かった点も任せてもらった理由ではないかと思います。私は入社2年目から中途求人広告の代理店事業部長に就任していましたが、08年にリーマン・ショックが起き、翌年から広告事業に陰りが見え始めました。新規の受注がまったく取れず、赤字転落の危機に陥ったのです。必死で打開策を探していたところ、新卒採用の業績が中途ほど悪化していないことに気が付きました。新卒を採用する体力のある企業が、リーマン・ショックの中でも新卒採用を完全には止めていなかったのです。そこで我々は急いで全国に拠点を広げ、各地の新卒採用企業にアプローチすることにしました。拠点を増やすことで、業績不振だった中途求人広告の担当者に新拠点で頑張ってもらうことができ、中途採用の部署の人件費や販管費は減るため、リストラの必要もなくなりました。

すべての事業と領域に本気で向き合い続ける

御社では、派遣会社の介在価値をどのようにお考えですか?

求職者の満足度を最大限に向上させることが、人材サービス会社の役割だと考えます。求職者が就労先で満足して働ける環境を整えることで、採用企業の満足度も向上します。例えば、建設人材派遣には技術者をサポートする部隊があり、技術指導の他だけでなく、定期的な面談でアラートの早期発見や今後のキャリアについてのヒアリングなども実施しています。技術者一人ひとりの想いを聞き、寄り添い、向き合うことで定着につながり派遣先、業界に対して貢献できると考えています。

最後に、派遣事業の展望をお聞かせください。

人材派遣の概念は、今後も変化します。当社はこれからも企業のニーズをくみ取り、派遣に関わるサービスをトータルで提供していきます。例えば、一般事務の派遣では、システムとシステムを使いこなせる人材をセットでご提案することで、企業の成長を手助けできます。

ヘルスケア分野に関しては、既存の介護スタッフ派遣・紹介事業「ナイス!介護」に加え、病院やクリニックなどの医療領域に特化した「ナイス!メディカル」を立ち上げました。エンジニア分野は、今後は未経験者を育成する取り組みを本格的に開始します。他社に比べて派遣の領域が幅広い当社ですが、どの派遣領域にも等しく本気で向き合っています。