人と企業の隠れた魅力を最大限に引き出すことが介在価値

中国・四国地方を中心に人材サービスを展開するクリエアナブキ。2023年9月に代表取締役社長が楠戸三則氏に交代して以降、「地域密着」と「海外」を掛け合わせた新たな採用スキームの確立に注力しているという。いったいどのような取り組みなのか、詳しく聞いた。

埋もれていた優秀な人材も活躍できる場所としてBPO事業に注力

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

クリエアナブキは、中国・四国地方の人材サービス会社として1986年に創業しました。創業当時は派遣マッチング事業がメインでしたが、それだけではお客様の課題解決につながらなくなり、徐々に人材紹介やBPO(業務一括委託)、教育研修などのサービスを追加して今日に至ります。今後も、就業課題の解決に向け、海外人材や障がい者雇用、副業支援のほか、新たなサービスや事業を展開していく予定です。

御社は、かなり幅広い領域を扱っている印象があります。

そうですね。それが強みでもあり課題でもあります。中国・四国地方は中小企業が多く、あらゆる職種を少人数でご依頼いただくことが多いため、個々の企業様に寄り添った提案ができるよう努力してきた結果、幅広い領域のサービスを提供するようになりました。その点では他社との差別化になっていますが、突出した領域がないという見方もできますので、今後は得意領域をさらに伸ばしていきたいと考えています。

現在もっとも注力している事業は何でしょうか。

企業様に対してより多く良質な成果をお渡しするために、当社は現在BPOに注力しています。例えば、「午前9時から午後6時まで働ける20代の事務スタッフ数名」という発注をいただいても、該当者がいないことがあります。一方、40代で午前10時から午後4時までしか働けないけれど、仕事をきちんとこなせる人材なら見つけられることがあります。それならば、当社が業務ごとお預かりして、企業様が求める仕事を遂行できるスタッフを揃えて運営すればいいという考えから、BPOの比率を高める動きになりました。企業様もけっして若くてフルタイムの人に働いて欲しいわけでなく、求める成果を出してほしいための条件として出した数字ですから、良質な成果をお渡しできれば、何歳で何時間働ける人かはそれほど重要ではないことが少なくないのです。

BPOに力を入れようと思ったもう一つの背景に、コロナ禍があります。コロナ禍でワクチン接種会場の受付や運営スタッフが必要になったとき、多くのアクティブシニアに活躍していただきました。このとき我々は、働きたい人、働ける人が等しく活躍できる場所を作る会社でありたいという思いが強くなりました。

さらに、今後は首都圏から中国・四国地方へ仕事を誘致するニアショアを強化していくことで地域の仕事を増やし、さらなる雇用創出を実現していきます。首都圏の企業様にとっても、BCP(緊急時における企業の事業継続計画)の一環として、一極集中ではなく拠点分散が出来ることやコスト対策になりますし、求職者様にとっても、時短・在宅勤務・副業希望など、あらゆる働き方に応えることが可能となります。

子育て中の人が働きやすいよう、御社には託児スペースがあるのですね。

当社は、託児機能付ワーキングスペースを運営するママスクエア社と共同で、働きたいママへ働く場所を提供するクリエ×ママスクエアを展開しています。クリエ×ママスクエアとは、ガラス一枚を隔て、キッズスペースとオフィスが隣り合ったモデルをいい、親が子どものそばで働くことができるため、親も子どもも安心できますし、送迎時間も不要になります。

BPOの需要は今後も増加傾向に

BPOは、楠戸様が代表に就任された2023年9月以前から注力していたのですか?

2010年にアウトソーシング課を創設し、当時私も業務に携わっていましたが、近年改めて注力しておりました。私もその流れを汲み一層強化していきたいと考えており、オフショアを含め現在約100席のところ、3年で500席まで拡大したいと考えています。

企業からの需要は増えていますか?

そうですね。なかなか人材が集まらないため、コア業務は自社の従業員に任せてスキルアップをしてもらい、それ以外の業務は外注する企業様が増えましたし、今後ますますニーズは高まると予測しています。

BPO以外に注力する取り組みがあれば教えてください。

障がい者雇用支援事業です。今後、障がい者雇用は増加し、それを支援する事業者も増加することが見込まれますが、法定雇用率達成のみに着目して運用してしまうと、スキルと業務のミスマッチや、サポートスタッフが疲弊してしまうなどの諸問題が発生しかねません。当社が運営する障がい者雇用サテライトオフィス「ウェル工房」は、障がい者の働きづらさを解消し、ノーマライゼーションを目指す場所です。ウェル工房の拠点展開を加速させるとともに、障がい者が製造している健康加工食品を消費者の手に届けることで多くの方のウェルビーイングに寄与しながら、障がい者雇用の新しい形を広げていきたいと考えています。

また、派遣スタッフへのリスキリングの機会提供にも力を入れており、リスキリングのモチベーションを上げるための講演会も開催しています。今後はリスキリングで給料が上がるなどの成功体験を増やしていく必要があると思っています。

海外の自治体や支援団体と連携し、採用企業に優しい外国人採用を目指す

ここ数年で企業側からの採用ニーズは変化しましたか?

人材紹介では、後継者候補としての管理職とIT人材のニーズが増えました。また、30~40歳代の中堅層が欲しいというニーズは、以前から変わらずありますが、国内の人口減少に歯止めがかからない中で、海外人材のニーズも顕在化し始めています。

海外人材の活用にも取り組まれていると聞きました。

2019年にはベトナムに現地法人HR ANABUKI VIETNAMを設立し、在日本企業からのCAD・IT領域等のアウトソーシング受託や日本企業へのベトナム人材の紹介、在ベトナム企業向けの研修事業などを展開してきました。さらに、これまでに培った経験やノウハウを活かしベトナム雇用代行サービス(GEO)にも着手しています。ベトナム雇用代行は、日本国内にベトナム人を呼ぶ事業ではなく、ベトナムへの進出を支援する事業です。地元での人材獲得にとどまらず、地元企業の海外進出支援を行うことで、企業の成長に貢献したいと考えています。また、インドネシアの中でも雇用が少ない州と組んで、州が技能教育支援をし、当社が受け入れるというスキームを現在構築中です。

特定技能外国人を採用するには一人当たり数十万がかかり、それが複数人となると、かなりの費用負担になるため、なかなか導入が難しいという声も聞くのですが、当社のスキームであれば州が教育費を支援しますので、採用企業様の費用負担は渡航費などの諸経費と毎月の支援料で済みます。

海外人材が金銭面の不安なく安心して日本で働く機会を提供しつつ、特定技能に合格した人材を中国・四国地方の人手不足に課題を持つ企業様に少額でご紹介することで新たな雇用の創出ができれば、三方よしです。

目標は2027年までに海外人材雇用1,000人

人材業界もAI導入やDX化が進み、改めて介在価値が問われています。御社のお考えをお聞かせください。

自動マッチングを活用する方法も、それはそれで一つの戦術だと思います。一方で、当社は地域密着型の永続的なお付き合いをするお客様が多いため、数を打つだけの形式上のサービスでは事業継続できません。お客様ご自身が気付いていない魅力や可能性を見つけて採用につなげていく役割こそ、当社の介在価値だと考えます。仮にAIを活用したとしても、そこで得た情報から先、未来のお客様を想像する能力と寄り添う心が必要です。

介在価値を感じた事例を教えてください。

当社の担当エリアでは、プログラミングを勉強していても企業での実務経験がないと採用されないケースが散見されます。そこで、DXに注力する愛媛県からの受託事業を通して、ITスキルを持つ方やIT業界に興味がある方へのインターンシップやフォローアップ研修により、愛媛県内企業への就職・定着を図っています。また、派遣スタッフの実務経験を積む場として、県内のシステム会社に一定期間受け入れてもらう段取りも進めています。このように、各所を巻き込み採用を活発化させるアクションは、人材業界、特に当社ならではの介在価値だと思います。

最後に、中長期の目標を教えてください。

あなぶきグループ全体の方向性として一貫して『地域密着』がありますが、人口減少問題を解決するためには世界に出ていき、国内、海外人材の双方の活用を強める必要があると考えております。当社の海外人材採用スキームが完成すれば、年に100人は日本に来てもらえると予測しています。自社内にも外国人を増やしたいと考えており、2027年までにトータル1,000人の海外人材雇用を生み出すことが、中期目標です。国内は、今後は人数よりも介在価値を高めることに一層注力してまいります。