国籍も性別も年齢も関係なく才能を引き出すことが人手不足解消の一手に
売上世界1位を誇る人材サービス会社、ランスタッドの日本CEOが2023年に交代した。新CEOに就任したカイエタン・スローニナ氏に、人材市場の現状とランスタッド社としての解決策、外国人採用のポイントなどについて聞いた。
現代の働きかたに合わせた支援をワンストップで提供
最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
ランスタッドは、売上世界1位の人材サービス会社です。オランダに本社を置き、39カ国に拠点があります。日本では、人材派遣、人材紹介、テクノロジー、アウトソーシング、人事等のサービスを提供しています。
日本の人材不足やダイバーシティ経営に対する御社の取り組みをお聞かせください。
当社は世界のタレントカンパニーとして、働きかた改革に向けたED&I(Equity,Diversity& Inclusion)を重要な使命と位置付けています。当社の調査でも、ED&Iサポートを重要だと回答した日本の働き手が全体の34パーセントに上りました。
当社では、全従業員を対象とした研修や月次ニュースレターの発行、ERG(自主的活動)の推進などを実施しています。今後もこのようなネットワーク活動を通じ、職種を問わず多様な人材が活躍できる職場づくりを目指しています。
具体的な活動の一例として、2023年4月からオランダ王国大使館などと協力してED&Iに関する議論を異業種で行い社会に発信していく活動を実施しています。また、東京レインボープライドに2年連続でブース出展し、九州レインボープライドでも初めてブーススポンサーをさせていただきました。社内でも、在宅勤務利用率42パーセント、ジョブ型雇用、従業員が自らのキャリアを選択できる社内公募制度を導入するなど社員が働きやすく自らキャリア形成を行える環境を用意しています。コミュニケーション環境も充実しており、フラットな社風を実現しています。Great Place to Work® Institute Japanより2年連続で「働きがいのある会社」にも認定されました。
24年1月に発足した「キャリアチェンジ転職チーム」も人材不足解消手段の一つでしょうか。
おっしゃる通りです。「キャリアチェンジ転職チーム」は、年収300万円から600万円前後の幅広い職種を対象に、派遣スタッフから正社員への転換支援サービスです。これまで高収入のハイクラス人材を中心に支援してきましたが、600万円未満のポジションも支援することで、ダイナミックに変化する雇用環境と社会的ニーズに対応し、より柔軟に働きかたを選べる社会を目指します。
シニア層に関しての支援はありますか?
22年より年収800万円から1500万円にフォーカスした人材派遣サービス「プロフェッショナル派遣」を開始しました。この年収帯のシニア層に、これまで培った経験とスキルをプロジェクト単位・月単位で活かせる「派遣」という働きかたを提案しています。
総じて、求職者主導の時代に対応していらっしゃるということですね。
その通りです。これまで日本は、社会人になったら正社員で就職して定年まで働くことがベーシックなライフプランでした。ところが現在は、従来の考えかたに捉われず、自分に合った働きかたを柔軟に選択できる人生を希望し実行できる社会になりました。当社は、現代の求職者に合わせられる柔軟性を確保し、横断的なサービスをワンストップで提供できる会社「ワン・ランスタッド」になります。
アンビションは「partner for talent ~人材に寄り添う真のパートナー~」
御社が派遣スタッフのために注力している取り組みを教えてください。
約1年半前に、ランスタッドグループのアンビション(大志)を『世界でもっとも公平で専門性を備えた人材会社になる』と定めました。このアンビションには、「partner for talent (パートナー フォー タレント)」というキーワードが紐づいており、「人材に寄り添う真のパートナー」を意味します。「キャリア形成のプロセスで長く人に寄り添い続ける存在である」という誓いです。
この言葉を実践するため、当社では単に仕事を提供するだけではなく、求職者にトレーニングやリスキリングを実施しています。例えば、テクノロジー領域の実務経験がまったくなくても、ランスタッドでまずは採用しトレーニングを施してから企業に派遣し働いてもらうサービスを提供しています。基礎知識があるだけで働きやすくなりますし、本人の自信にもなり、長く働く要因となるでしょう。もちろん、未経験からのスタートでも、経験を積めば高待遇になっていきます。
リスキリングには、仕事を見つける方法も含まれます。私もかつては、学生に履歴書の書き方や労働市場へのアプローチ方法などを教えていました、その学生たちは、そのときはお小遣い稼ぎのアルバイトを探していましたが、やがて就職活動の時期になると、再び当社を頼ってくれました。その他、子育てが落ち着いた人や定年退職後の再就職など、当社は分け隔てなくサポートしています。
また、契約が終了した派遣スタッフに他企業を紹介したり継続雇用へ尽力したりすることにも積極的に取り組んでいます。これが「partner for talent」の姿です。
企業課題の解決は自社が先陣を切って手本になる
外国人採用について御社のお考えをお聞かせください。
外国籍人材が日本で働くには、非常に間口が狭い現実があります。日本のマーケットに貢献したい外国籍人材がいても、働ける職種は限定されており、それらの待遇は決して高いものではありません。また、高度な日本語が話せなければいけない点も障壁になっています。
当社では、製造工場などの採用企業に対し、三つの提案をしています。一つ目は、外国人採用時のオンボーディングプログラムの提供です。プログラムはそれぞれの言語で作成し、ドキュメントにして渡します。二つ目は、シフトを組む際、彼らの国のコミュニティー内で日本語が話せるスタッフと組みます。三つ目は、職場の案内板や標識に働くスタッフの母国語を入れること。この三つで、海外から来た派遣スタッフはかなり働きやすくなります。同時に、日本に長く住む外国人も積極的に活用したいと考えています。
採用企業側ができる取り組みは何でしょうか。
外国人採用は今後ますます必要になり、人数も増加すると思います。外国人の人材を採用したいと考えるのであれば、外国人専任のコーディネーターを社内に起用することを勧めます。企業側で採用してもいいですし、当社がサポートすることもできます。コーディネーターは、仕事のアテンドだけでなく、コンビニの場所や家庭ゴミの捨て方など、就業時間外の日常生活のことについても気軽に聞けるような存在であることが大切です。
複数の国の人々が働く場所は、国籍や言葉、ジェンダーだけでなく、民族性も多様になります。また、日本にはLGBTQ+を受け入れない企業がありますが、能力にジェンダーは関係ないと思います。年齢に関しても、日本では一定の年齢を超えると働き口の選択肢がとても狭くなりますが、能力と年齢もあまり関係がないと思います。私もある一定の年齢を超えましたが、CEOとして働いています。
我々は、年齢や国籍、ジェンダーなどに関係なく、すべての人に心地よく仕事をしてほしいと思っています。バイアスのない労働環境を提供し、個々人を尊重すること。そして、意味ある仕事を提供すること。これらを大事にしています。企業側も、そこから得られる利点があるはずです。これらの課題は、一朝一夕に解決できることでははありません。日々、さまざまなアジェンダの中に組み込み、積み重ねていくことが大切です。
エクイティ(公平性)に関しては、障がい者雇用も含まれます。日本は障がい者の法定雇用率が設定されています。法定雇用率を達成するためには、障がい者手帳の提出を求めないといけません。見ただけでは障がい者かどうか分からない人も、提出しなければいけないのです。 ランスタッドジャパンでは、障がい者の雇用に対する取り組みとして、認定資格を保有するマネジャーが障がい者の人たちと一緒に働く活動を実施しています。
総じて、これまでの日本の年齢基準やジェンダーに対する考えかたをアップデートすることが、幅広い才能を持った人材を採用し続けるポイントになると思います。
最後に、日本の女性活躍について御社のお考えをお聞かせください。
女性活躍という観点では、育児や介護などで離職や時短労働をしている女性が、家庭と仕事を両立できる環境づくりが必要だと考えます。特に、130万円の壁(年収130万円を超えるとパート・アルバイト労働者は扶養から外れ社会保険料や年金の支払いが発生する) により眠っている人材は多く存在します。日本の労働人口は6,700万人、うち派遣スタッフは100万人以上いるにも関わらず、130万円の壁があることで、働けるのに制限をしている人が一定数いるのが現状です。同時に、女性管理職比率を上げていく努力も必要です。当社では、「2030年までにマネジャー(管理職)の男女比を50パーセント対50パーセントにする」をグローバル目標に掲げています。サラリーについては、すでに同一ポジションでのジェンダー差はないです。企業へジェンダーディスパリティをお願いする立場ですから、まずは当社が先陣を切って手本になることが大事だと考えています。