派遣は人数確保から生産性向上の時代へ

2023年11月、東北エリアを中心に総合人材サービス事業を展開する東洋ワークの社長が交代した。新社長には、かつて東洋ワークグループの警備会社、東洋ワークセキュリティの社長だった菅原正秀氏が就任した。警備会社から人材サービス会社へ転籍した理由や、派遣市場の介在価値、東洋ワークが描く派遣事業の未来などについて聞いた。

警備事業経験が人材サービス事業の戦略に活きた

この度は代表取締役社長へのご就任、おめでとうございます。最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ありがとうございます。東洋ワークは東洋ワークグループのグループ会社で、東北エリアを中心に事業展開する総合人材サービス会社です。創業は1976年、今年で創業48年になります。派遣・請負・職業紹介・国際・IT人材育成を主な事業としています。

続けて、菅原様のご経歴を教えてください。

私は、東洋ワークの警備事業部(現 東洋ワークセキュリティ)に新卒入社し、2011年に同社の代表へ就任しました。20年まで在籍した後、同年に東洋ワークへ転籍し、副社長に就任。23年11月1日付けで社長に就任しました。

菅原様が東洋ワークの社長に抜擢された理由はご存じでしょうか。

変化の激しい時代の中で、東洋ワークに新しい風を巻き起こしてほしいとのことだと思います。私が長く携わった警備事業は、教育に非常に重きを置く教育産業です。警備員職は、なりたいと思ったら誰でもすぐになれる職業ではありません。警備業法上の法定研修を20時間以上受けることが大前提です。そのため、警備員には付加価値が付き、給与単価が一般職より高くなります。私は「求職者に付加価値を付け、高い給与をもらっていただく」ことを東洋ワークでも実践したいとかねてより考えており、就任後すぐに企画し始めました。

リスキリングで人材の生産性を向上

菅原様が東洋ワークへ入社された時期はコロナ禍でした。コロナ禍とそれ以降で、派遣市場はどのように変化しましたか?

コロナ禍により仕事を失った宿泊業や飲食業スタッフの多くが製造業に転職しましたが、23年に新型コロナウイルス感染症が5類になり観光や飲み会が解禁され始めると、以前の業界に戻っていくようになりました。それにより、製造業は突発的な人員減少と慢性的な人材不足が重なった、非常に難しい時期に入っています。

御社ではどのような対策をしていますか?

どのような状況下でも、もっとも大切なことは、求職者に「当社のスタッフとして働きたい」と思っていただく環境づくりです。当社では、ただアサインするだけではなくリスキリングの機会を提供し、自身のキャリアアップにつなげる取り組みを行っています。その結果、一人ひとりの生産性も向上し、お取引先様にも質の高いサービスを提供できると考えております。リスキリングのための講習会や研修プログラムは23年から始めましたが、受講を修了した社員がすでに建設とIT領域のエンジニアで活躍しております。

スキルが身につけば一般労働より賃金が上がります。実際に、これまで応募が少なかった求人の募集要項に「リスキリング」を追加すると、何倍、何十倍の応募数になりました。求職者の皆様も、新たなスキルを身につけて、給与を上げる機会を探していることが、よく分かる出来事でした。 

企業側の採用活動は今後どのように変化すると思われますか?

これだけ労働人口が減っている今、大手企業が給与や職場環境を見直す動きは今後も加速していくでしょう。ただ、中小企業においては早急な対応が難しい現実があります。当社にとってもまさにそこが課題ですが、リスキリングによって労働者1人当たりの生産性を高めるなど、既存のサービスに付加価値をつけていくことが重要になってきます。

人材サービス会社の介在価値は人材の調整弁であること

リスキリングの他に注力している取り組みがあれば教えてください。

当社はこれまで派遣と請負を中心に事業展開しておりましたが、日本の人材不足が進む中で、企業様から「直接雇用で人材を探してほしい」と言われる機会が増えました。そこで当社は、派遣・請負と紹介の縦割りを改め、全職種の派遣・請負スキームに人材紹介を取り入れて、お客様のご要望に柔軟に応えられる体制にしました。派遣スタッフに直接雇用の機会が生まれた際も、本人が望めば転属の方向で話を進めます。

AIやDX化により、人材サービス会社の介在価値が改めて問われています。御社のお考えをお聞かせください。

例えば、当社の主な取引領域である製造業は、社会情勢やサプライチェーンの混乱、事件、災害、戦争などに大きく左右される業界です。08年に起きたリーマン・ショックでは、大量の派遣切りが発生し、社会問題となりました。後に経済が回復しても、派遣スタッフは以前と同じ在籍水準には戻りませんでした。この苦い経験から、その後は震災が起きても派遣スタッフの人数調整を最小限に抑えました。いずれ、経済は回復すると経験上知っていたからです。人材サービス会社は人材の調整弁を担っている存在であり、それが介在価値だと思います。

派遣会社の中で、御社の特長や強みは何でしょうか。

現在在籍する3,000人の派遣スタッフの約半数が常用雇用で定着しており、離職率が低い点は強みだと思います。離職率が低いと、クライアント企業様からの満足度向上にもつながり、その結果、お互いに信頼関係が生まれ、クライアント企業様に派遣される従業員の帰属意識も高くなる。そのような好循環も影響していると思います。

請負事業の強みもお聞かせください。

請負はさらに定着率が高く、出勤率は95パーセントと、派遣の74.2パーセントより高い水準です。派遣の出勤率向上は当社が考えるべき課題ではありますが、お客様の直近の人材不足解消案として、派遣を請負に切り替えていただく提案もしています。

国内人材は増員から生産性向上へシフトし、外国人材は働く環境整備を強化

現在抱えている課題と、それに対する対策を教えてください。

もっとも大きな課題は、やはり人材不足対策です。リスキリングを通して、一人ひとりの生産性を高めることも引き続き注力していきますが、インドネシアやベトナムをはじめとする海外からの優秀な人材を呼び込むための活動も行っていきます。これからは、海外から半導体などの大手企業が次々と参入し、国内外の人材が共存共栄できる仕組みづくりが欠かせません。当社の強みを活かして積極的に支援をしていきたいと考えています。

人材市場においては、日本のプレゼンスが低下したといわれて久しいですが、それでも日本で働きたい外国籍の人材はたくさんいます。当社が入国手続きから生活までサポートすることで、求職者と企業の両方のお役にたてるのではないかと思います。実習生は決まった業種で3年間働く決まりがあり、特定技能生は派遣も可能ですが農林水産業に限られるなどの決まりがあり、制度を理解するには難しいと感じている企業の採用担当者もいます。そういった企業には、当社が、代行して手続きや入管対応などをしていきます。また、この4月に仙台と東京に外国人材の管理・キャリア支援などを行うサポートデスクを開設する予定です。外国人を日本に送って終わりではなく、日本で働いてからも様々な面でサポートすることを目的としています。総じて、国内は人材を育成して生産性を上げる。外国人材には働きやすい環境を当社が積極的に整える、この二軸で取り組みます。

東北エリア市場はこの先どのように変化するとお考えでしょうか。

23年現在、東北地方の労働人口は456万人ですが、45年までに40パーセント減の273万人になると推測されています。それまで10人でやっていた仕事を6人でやらなければいけなくなる計算です。そうなると、DX化は避けられず作業の多くがシステム化されますが、システム同士をつなぐ人の仕事は必ず発生します。いまIT人材は主にIT連企業へ派遣していますが、いずれ幅広い業界へ派遣することになると思います。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

東洋ワークグループは創業から48年間、雇用の創出に貢献してまいりました。このビジネスモデルはこれからも大切にしていきますが、時代が目まぐるしく変化する中、今後はさらなる既存事業の高度化と、新たなビジネスモデルの開発に注力、特化してまいります。